第26話 もふもふしてる

「小僧、どけ。氷剣は死んではおらんだろう。連れて帰れ」


ズルズル。

夜の王を引っ張ってどこかへ向かおうとする剣帝。


それからミーナに目をやってから剣帝に戻す。


ふぅ……。

はぁ……。


正直足が震えるくらいビビってるんだけど。


「娘が世話になったようだな」


ピクリ。

眉を動かすレーヴァテイン。


「盗賊団【アルカナ】の件か。見覚えがあると思えばそのリーダーか」

「なぜ、こんな小さな子供を狙ったんだ?」

「盗賊の子供なら奴隷にして売っても捜索もされづらい。ちなみに他のメンバーは既に売却済みだ。今ごろ世界中で奴隷として活躍中だろうよ」


なるほど。

言ってることは理解できるけどそれを認めるかどうかは別だ。


その時だった。


『人間、ワシの声が聞こえるか?』


(あ?)


突然の声に驚いた。

どこから聞こえてるんだと思ったら、脳内に直接声が届いてる。


そして届けてるのは


(夜の王?)


『お主をとりあえずの味方と判断する。ふたりでこいつを倒すぞ』


(お前しゃべれるんかい)


『今はどうでもいいことじゃ。ワシの言葉に乗るなら今すぐに動いてくれ。ワシがお前に合わせる』


俺はミーナに目を向けた。


「離れてろ」


そう言うと俺を見てくるレーヴァテイン。


「お前も離れるんだよ小僧。どけ。さもなくば斬る」

「誰が」


そう言って俺は【武装強化】を使って先に攻撃をしかけた。


先手必勝!

開始の合図なんていらない!


ブン!


「な、なんだ今のは」


ハラり。

おしい。


もう少しで首を斬れたのに。

前髪を切るだけで終わったか。


「こ、この太刀筋。ま、まさか。すいけんかお前!こんなところで出くわすとはな!【諜報班】からそんな話は聞いていない!」


しかし、その時だ。


『よくやった、人間』


ドカッ!


横から夜の王が突進してレーヴァテインを突き飛ばす。


「な、なんだ!」


驚いているらしいレーヴァテインだが俺はそれを見逃さない。


「死ね!」


バランスを崩したレーヴァテインに近付くと首を断つように剣を振り下ろす。

しかし


「がっ!舐めんな!」


レーヴァテインは左手を一本犠牲にして無理やり俺の攻撃をやり過ごした。


(命を優先したか)


ドゴッ!


しかしそれを見逃さない夜の王。


もう一度突進をした。


「ちっ!さすがにこのレベル複数の相手は無理か!スキル使用すらままならん!」


レーヴァテインはチラッと俺から目を逸らした。

逃走ルートを探しているようだ。


ダッ!

そして、そのまま逃走を始めた。


『……』


クタッ。

倒れ込む夜の王。


「勝負は預けた!」


逃げながら話しかけてくるレーヴァテイン。


「なに言ってんだよ。勝手に預けるなよ。ここで終わらせるに決まってんだろ」


ダッ!


ブーツを【武装強化】して全力で地面を蹴りつけた。


「っ?!」


俺に追いつかれると思っていなかったのか驚愕するレーヴァテイン。

その足を切り裂いた。


スパン!


ゴロッ。

2本の足が転がる。


どたっ!

その場に落ちるレーヴァテイン。


「がっ!な、なんだこの斬れ味は!それに今のは【縮地】かっ?!」

「今のは【縮地】ではない。ただ走っただけだ」


俺は続ける。


「お前に次なんてないよ。これがラストチャンスだ。生きたきゃ俺を殺してみろ」

「お、お前……」

「【剣帝】か。強そうな肩書きの割に​───────​弱いんだなお前」


ザン!


レーヴァテインの首をはねとばした。


「いや、違うなこれ」


俺ずっと【剣帝】だと思ってたけど


「【剣底】ってオチだなこれ」


(つまり今の勝負は【剣底】VS【剣底】だ!)


俺が勘違いしてただけだなこれ。


うん。

なら弱くて当たり前だな!


それもそうか。


(だいたい、剣の帝だぜ?そんな正義の味方っぽいやつが悪の組織にいるわけないよな!)


さてと、戻りますか。



さっきの場所に戻るとミーナがスグに近寄ってきた。


「お、お帰りなさい」

「レーヴァテインは始末してきた」

「へっ?」


驚いてるミーナの頭を撫でてやる。


「お前をいじめるやつは皆殺しだ。地の果てまで追いかけてぶっ殺してやる。親族諸共根絶やしだ。いじめっ子の家族も全員皆殺し。それでいいんだよイジメするやつなんて」


もうこいつは俺の娘みたいなもんだ。

いじめるやつは誰であろうと排除する。


(それが親ってもんだと俺は思うわけ)


って思いながら夜の王がいた方に目をやると、そこには


「うぐぅ……」


どす黒い血を垂れ流す銀髪で犬耳の女の子が寝ていた。


「犬どこいったの?」


ミーナに声をかけてみると。


「そ、それが夜の王が女の子になったんです」


そう言ってくるミーナ。


「は?」

「だ、だからあれが夜の王なんです」


そう言って銀髪の女の子を指さすミーナ。


嘘は、つくわけないよな。


「な、なんで?」

「わ、分かりません。とにかく、今首輪した方がいいのでは?」

「そ、それもそうか」


そう思いながら俺は女の子に近付いて声をかける。


「大丈夫か?」

「さっきの人間か」


と言ってくる女の子。


ミーナも近寄ってきて女の子の腹部に目をやった。

そこにはなにかやら紋章が浮かんでいた。


「これアサシンズクランの呪術ですね。呪いみたいです。回復を邪魔する魔法です」

「どうやったら解除できる?」


そう聞いてみたら答える女の子。


「魔力を……」


そう言ってきたので俺は首輪を見せた。


首輪をつけて主従関係を結ぶと魔力を渡せるようになる。


「よかろう。首輪をつけてくれ」


そう言っている女の子に首輪を付けると。


【???をテイムしました】


と表示された。


「魔力を」

「どうしたらいいんだ?初めてなんだ」

「手を繋いでくれ。後は自分でやる」


そう言ってきたので手を繋ぐと魔力を吸われるような感覚になった。


俺の体から魔力を半分くらい持って言ったようだ。


それから女の子は犬になって


「グルル……」


力を入れると、スゥゥゥゥゥゥっと。

紋章が消えていった。


これで治ったのだろうか?


『助かったぞ人間。お主の魔力は使いやすい』


そう言ってシッポを振ってくる夜の王。

かわいい。


やはり犬というのはかわいいな。


そう思ってから俺はミーナに目をやった。


「名前どうする?」

「イカロス様が決めればいいですよ」


と言われたので俺は夜の王を見て言った。


「よし、じゃあお前はフェルだ。今日からフェルな」


と言うとまたシッポを振った。


どうやら嬉しいようだ。


そんな反応をしてからフェルは女の子に戻った。


「こちらの方がいろいろと都合がよかろう」


そう言ってるフェルに顔を近づけて。


すんすん。


「なにを嗅いでるのだ?人間」

「いや、意外とクサくないんだなって。アンデッドって死体なんでしょ?」

「死体だが私は水浴びをしているからな。それでニオイはキツくない」


それから次に頭に手を伸ばしてみた。

もふっ。


(おー、ちゃんともふってる!)


そんな会話をしていたとき。


「おはようございます〜」


うしろから気絶してたらしいアクアが起きてきた。


「あれ?全部終わった感じなのか?」

「よく寝れたか?」

「えぇ、もちろん!」


変なとこ打ってないよな?こいつ。


「あ、あれ?その子は?夜の王は?レーヴァテインは?」


アクアがフェルを指さした。

答えようと思ったらフェルが直接話しかけてきた。


『私のことは討伐したことにしておけ。そっちの方が話もこじれんだろう』


とのことなので。


「夜の王は討伐した。レーヴァテインも倒した」


そう答えるとフェルも口を開く。


「私は国家間の移動中に夜の王に誘拐されていた。そこをこの男に助けてもらったのだ」

「ほえー」


と、アクアは俺たちの話を信じきっていた。

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