第7.5話【アンリ視点】騎士団の対応
SIDE アンリ
ギィッ。
ギルドの扉が開いた。
そこに立っていたのは我が国の近衛騎士をまとめあげる近衛騎士団の団長であるダンバル。
この国に住んでいてあの男を知らない者はいない。
ダンバルは騎士を何人かつれてこちらに歩いてくる。
そして、カウンターの前に立つと私のネームプレートに目を落として名前を呼んでくる。
「アンリ嬢か」
「な、なんでしょう?」
「このあたりでイカロスという男を見なかったか?」
イカロスさんを探してる?!
あの人、まさかこの人が入ってくるのに気付いてた?
剣以外は使えないって聞いてたのに、【気配察知】スキルを使ったのだろうか?
いろいろと思うところはあるが動揺を見せないようにしながら対応する。
「い、いえ。知りませんね」
「そうか。このあたりで目撃情報があるのだが」
「その人がどうかしたのですか?」
「あのクズは騎士団の訓練に来なくなった。だから探しているのだ。騎士団は『やめる』という言葉だけでやめられるほど甘くは無い」
(やめさせてあげてよ……)
近衛騎士団。
この国の顔である王族をお守りする光栄な仕事をしておられる人達。
華々しいイメージがあるが、その実態はかなりドロドロしているらしいことが分かった。
「もし見かけたら拘束して私に連絡して欲しい。あのクズを連れ戻そう」
「ちなみにですが騎士団はどうやったらやめれるんですか?」
「騎士団をなんだと思ってるのだ?近衛騎士は王族に命を捧げているのだ。やめられるわけないだろう?つまりやめるときには死体になっている、ということだな」
(真っ黒だ!やばすぎ騎士団!)
なんでこのことが知られていないのか分からないくらいやばそうじゃないですか?!
この近衛騎士団とかいう騎士団!
やばすぎ!
「手間をかけたなアンリ嬢。ではこれで我々は失礼しよう」
そう言って帰っていく団長。
そしてゾロゾロとその後をついていく近衛騎士だったがひとりだけ残っていた。
女性の近衛騎士だった。
キレイな金髪を伸ばしている美人な人。
その人も私に声をかけてくる。
「近衛騎士団副団長のアリシア」
そう名乗ってアリシアはスっとカウンターの上に皮袋を置いてきた。
そうして私にだけ聞こえる声量で話してくる。
「近衛騎士イカロスが見つかれば私にも連絡して欲しい。この連絡は団長を通さず秘密裏でお願いしたい」
そうとだけ言ってアリシアと名乗った騎士はギルドを出ていった。
こんなもの本当は受け取れないんだけど……。
中身を確認してみると。
(100万ゼルくらい入ってる?!)
これはワイロなのだろうか?
でも、私にはイカロスさんを売るなんてことはできなかった。
この件は墓場まで持っていこう。
その後私はミーナに視線を向けた。
この子は私よりも若いのにずっとしっかりしてる。
スラムっていう環境がそうさせてきたんだろうなっていうのはなんとなく分かる。
「今のどう思いますか?」
「ひどいですよ」
スラム出身者ですらそう思うくらいひどいらしい。
騎士団というのは。
「月に9万というのが本当なら給料に見合わないですよね、近衛騎士団なんて」
そう言ってからミーナは私に目を向けてきた。
「私はあの人に幸せになってもらいたいです。どうにか騎士団から逃がすことってできませんか?でもあの人金欠だからできるだけお金かからない方法で」
そう聞いてくるミーナ。
私も実の所同じことを考えていた。
ブラック騎士団から逃がしてあげたい。
「ひとつだけ方法があります」
「それは?」
「国外逃亡です」
騎士団にはこういうルールがあることを聞いたことがある
【事情を問わず規定日数訓練や作戦に出ない者は死亡扱いとする。騎士団も強制除名処理となる】
この王国内での騎士団の力は王族につぐものという扱いだが、国外に出て他の国に行くことが出来れば、そちらまではこの国の騎士団では手が出せなくなる。
それは王族も同じだ。
そして、もし仮に王族がそれでもイカロスを取り戻したいとなっても他国への騎士団の入国手続きには時間がかかる。
それは数ヶ月というもの。
それだけの交渉時間があれば確実に規定日数は超える。
つまり、強制除名となる。
「でも、国を囲う壁には監視が置かれていますよね?」
これは侵入者や違法組織の接近などをその場で対処するためのシステムである。
そしてそんな彼らに国を守るための存在である近衛騎士が見つかればどうなるかは分からない。
でもうまくいけば見つからないようにすむ方法がひとつだけある。
そのときだった。
「行ったようだな。あの根性クソ野郎」
とイカロスさんがトイレから出てきて。
「なになに?なんの話してたわけ?」
と聞いてくる。
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