第8話 Cランク昇格クエスト

 俺が帰ってくるまでの間にあった話を聞いた。

 ブラック騎士団が俺の事をやっぱりまだ探してるらしい。


(よし、逃げるか。どこまでも)


 捕まったらまたあのブラックな精神論を押し付けられると思ったら死ぬ気で逃げる気になれる。


 精神論でなんとかなると思ってるやつの下では働けません!


「国外逃亡ってわけだな」

「はい」

「だが、ミーナから話は聞いたな?俺は所持金ないぞ、ほぼ」


 俺の今の所持金は1万ゼルくらいだ。


 こんなものじゃ、次の街に移動するための交通費にもならんだろう。


 普通国家間の移動をするのに必要な交通費は3万ゼルほどって言われてるからな。


 足りない。

 圧倒的に金が不足してるが、どうしたらいいか。


 そこで答えを出してくれるアンリ。


「本日の夜に実はCランク昇格クエストがあります」

「なんか関係あんの?」

「はい、もちろん。連続となりますが受けれますか?」


 ていうか


「一日に複数回昇格クエストって受けれるの?」


 俺もゲームとかしてたから知ってるけどさ。

 こういう昇格クエストを受ける前ってランクポイントみたいなの溜めるんじゃないの?


 それで一定の量が溜まってようやくクエストを受けられるみたいなシステムだと思うんだが。


「条件付きで受けれます」

「その条件って?」

「2度目の昇格クエストには受けることを許可したギルド職員の同行が必要になります」


 そこまで言ってもらえればさすがに俺でも察しがつく。


「アンリが同行してくれたら受けれるってこと?」

「はい」


 ここまで聞いて俺は昇格クエストと逃亡の件となにが関係あるのかを聞いてみる。

 するとカウンターの上に昇格クエストの依頼書を出てきたアンリ。


 そこにはこうあった。



【Cランク昇格クエスト】


名前:Cランク昇格クエスト

クエスト目標:グリモア商会の持つ馬車の護衛

出現モンスター:不明

天気:悪天候

制限時間:なし

環境:不安定


目的地:アステラル王国

距離:300キロメートル


報酬金:15000ゼル



「クエストで移動する、となるともちろん交通費はかかりません」


 なるほど。つまり無料で移動できるどころか、お金をもらいながら移動できるということだな。

 それならお金は必要ない。


「受けるよ」


 そう言うと手続きを進めてくれるアンリ。


「気をつけてくださいね。昇格クエストは複数種類ありますがこのクエストはどちらかと言えばBランクに近いものです。入念な準備を」


 Bランク、か。

 ごくり。


 緊張で出てきた唾を飲み込んで気合を入れる。


 さてと、昇格クエストのために準備するか。


 ここが真の正念場ってやつだと俺は思うわけよ。


 俺は逃げ切ってやる、ブラック騎士団からな。

 ミーナの顔を見る。


「ミーナ、いっしょに必要なもの買いに行こうか」

「はい」


 ミーナを連れてギルドを出た。

 

 昇格クエストに挑むのに必要なアイテムを街のアイテム屋まで買いに行くことにする。


 俺はエロゲのモブキャラみたいに髪長いんだけど、それをゴムで止めて一見誰だか分からないようにしてる。これで近衛兵に見つかることもないだろう。


 これだけでも見た目ってけっこう変わるからねぇ。

 伸ばしといて良かったよ。


(ま、本当は髪の毛切りにいく金ももったいなかっただけなんだが)


 そうして買い物をしていく。


 ポーション。

 とかまぁそんなところだな。


 あとは、えーっと。


 武器だな。


(木の枝や石ころくらいなら現地調達できるだろうけど、そろそろお金もたまったしちゃんとした武器を買うか)


 そう思って俺は武具屋にきた。


 なんだかんだ騎士団やめてから武器って未所持のままだったからな。


「らっしゃい!おっさん!なんにする!」

「予算がないんだ、一番安いのをくれ」


 そう言うと眉を顰める男。


「予算がない?ちょっと無理してでもいいの買った方がいいぜ。命を守る武器なんだからよ」


 高いもの、か。

 意味ないんだよね。


 俺技術力がなくて高いの買っても安いの買ってもたいして戦績は変わらないから。

 だから



 そう言ってみるとおっさんは2本の剣を持って俺の横に立った。


「聞き捨てならねぇなぁ」


 そう言って武具屋はまず高い方の剣を見せてきた。


「こいつぁ、ミスリルソードだ。50万ゼルのシロモノだ」


 そう言って試し斬り用のわら人形を取り出したおっちゃん。

 それから


「はぁっ!」


 わら人形をミスリルソードで切った。

 わら人形は真ん中からまっぷたつになる。


 それから


「こっちが安い方だ。1000ゼルのゴミだな」


 そう言って刃こぼれしてる剣を手に持ってそれでわら人形を切ろうとしたが刃が通らない。


「今のは極端な例だが安いもんと高いもんと、でこれだけ変わるんだ」


 そんな説明を受ける。

 説明を聞きながら安い方の剣に目を向けて。


「それ貸して?」

「いいが、ほら。絶対に切れねぇよ?」


 渡してきたおっちゃんから剣を受け取って。


【武装強化】


 ブン!


 スパッ!


 俺が振ると無事に刃は通ってまっぷたつになるわら人形。


「なんだ、ちゃんと通るじゃん」


 その場にペタリと座り込むおっさん。


 俺の顔を見てきて口をワナワナと震わせていた。


「ば、ばかな。この人形はキレナグサを何本も繋ぎ合わせて作った、Sランク武器以外で切れない人形だぞ?」


 とか、なんとか言ってるけど聞く耳は持たない。


 そんなおっちゃんを見下ろしながら俺はポケットから千ゼル札を取り出して、店主の胸に置いた。


「もらってくぜこれ。いくら高いのを売りたいからってわざと通さない、なんてのは論外じゃないか?」



名前:刃こぼれした剣

ランク:-

説明:ランクすらない価値のないゴミ



 そんな説明が出てくるが、俺の場合ゴミを使っても名剣を使っても結果はあんまり変わらない。


 だからもう自分が使う武器のランクなんて気にしてない。


 これでクエストに向かう準備は整った、といったところか。

 店主が声をかけてきた。


「お、お前ナニモンだよ?」

「ただの通りすがりのおっさんだよ」


 そう答えて歩き始める。


 王城のある方に目をやった。

 

 そこでは今も団長たちが必死に練習をしているのだろうか。


 そのことを想像しながら思う。


「さよなら団長。俺はもうこの国から逃げます。お元気で」


 最後にそう吐き捨ててそれ以上は王城を見ることなくギルドに戻ることにした。


 ギルドでアンリと待ち合わせしているからだ。


 それと、横を歩いてたミーナに言う。


「悪いな。飯の約束の件はまた今度だな」


 うまい飯でも食おうと約束した件はお流れになりそうだ。


「大丈夫ですよ、ぜんぜん」

「ま、期待してろよ、次の国でとびきりのもの食わせてやるから」


 そう言うとミーナは笑顔になってた。


(さて、これで準備はできた。あとは逃げるだけだ)


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