第38話 怖くても前に進むしかない

「……カリフ王、剣とはなんのことです」

 

「――なに! それをどこで聞いた!」

 

 思った以上の反応に驚いた。

 

「あ、悪しき竜が言っていました。国を返して欲しくば倒しに来るがいいと、それに剣を持てとも言ってました」

 

「…………」

 

「剣とは何のことです。竜がここまで来たことと何か関係が?」

 

「竜が剣を持てと言ったのか?」

 

「はい、確かにそう言ってました」

 


「王よ。いったいどうゆうことでしょう。竜、自らが剣を持って来いなどと」

「罠に決まっています。剣をこの場から離しその隙にここに攻め入るつもりかと」


 トラの衛兵たちがカリフ王に意見する。

 

「ん~~」

 

「教えてください。この山に何があるんです」

 

「それはならん。余所の国の者に我が国の内情を教えるわけには……」

 

「そんな事を言っている場合じゃない。こうしている今も悪しき竜が他の街や村に被害を及ぼすかもしれない。現にオレは竜に襲われたところを見てきた。住む家が壊され、子供たちも怯えていた。皆早く竜が居なくなるのを待っているんだ。あなた方の国の民たちだってきっと同じ思いのはずだ」

 

「んん……」

 

「お願いです。竜を倒すことが出来る何かがあるのなら教えてください」

 

「「「頼むチュー王様」」」

 

「私も、レオリカンの奪還に尽力することをここで誓います。カリフ王、お願いします話をお聞かせください」

 

 しばしの沈黙がその場に訪れる。

 大勢の集まっているのに不思議な感覚だ。

 


「……ロード、王である私に大層な口を聞いたお前に問おう」

 

「……はい」

 

「竜の言っていたことを直接聞いたのはお前だけだな?」

 

「はい」

 

「使用人一人の言うことをそのまま鵜吞みにして、国の内情を他人にやすやすと話すほど私の立場は低くはない。それはわかるな?」

 

「……はい」

 

「では、私が竜を倒す方法を教えたとして、お前はどうしようというのだ? 最後までレオリカン王国を動かした重責を背負えるのか?」

 

(それは……)

(出来るわけが……)

 

「それほどに強い者か?」

 

(そんな)

(強いわけが……)

 

「一人でも竜に立ち向かえるか!」

 

(!?)

 

 竜に立ち向かった時のことを思い出した。

 

(やろうと思えば……出来るか……?)

(けど勝てるわけ……)

 

「どうなんだ?」

 

「オレは……」

 

 これまでの被害を思い出す。

 怪我をした者たちを、不安でいる者たちを、思い出す。

 

(でも)

(このままじゃ何も変わらない)

(何とかしないといけない)

(言うしかない)

 

 ロードは真正面からカリフ王に宣言することにした。

 

「オレはただの使用人です。何の力もありません。毎日走って、宮殿を掃除して、勉強して、そんなことしかしていません。そんなオレに背負いきれるとは思えません。でも、戦いたいです。そんなオレでもいいのなら、オレ一人が動くことで、いい方向に傾くなら皆の先頭に立ちます」

 

「それをここにいるもの全員に誓えるか?」

 

「カリフ王それはあまりに」「重すぎる」「「「チューチュー」」」

 

「いいんだ。王子、ルロウ、ハチュ、チッカ、ツア、皆、ありがとう……」

 

(この気持ちに嘘偽りはなさそうだ)

 

「……はい、誓います。幸せだった、いつも日々に戻すためなら戦います」

 

「……よかろう。ロードついて来るのだ。お前にだけ我が国の秘密を明かそう」

 

「はい」

 

 ミャーガン山に続く道をカリフ王が先に進んでいく。

 僕は後ろからカリフ王について行く。

 知り合いの誰一人、後ろからついて来ることがない。

 ここからは一人になる。

 

(もう、引き返すことは出来ないな……)

 

 そういう道だった。

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