第46話 倒すかどうかの迷い

 レオリカン王国。

 

 最大のチャンスだったのに悪しき竜を倒し損ねた。

 

(……やれなかった)

 

 地面に強く激突した痛む身体を気にせず何とか立てている。

 

(チャンスを不意にしてしまった)

(ありがとう……そう聞こえたような気がしたが)

(勘違い?)

 

 ただ立ち竦むだけの足。

 汗ばんだ両手は震えながらも辛うじて剣を握れている。

 悪しき竜は竜殺しの剣を本能的に避けて近づいて来ない。

 

(?)

 

 改めて竜を見ていると異様なものが目に入った。

 

(剣……?)

 

 腹部の辺りに剣のようなものが刺さっていた。

 

『グアオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 大音響の咆哮が目の前で放たれた。

 

「っわ!」

 

 けれど、赤く光り出した竜殺しの剣は迫りくる咆哮の波を寄せ付けさせない。

 

「…………この剣が?」

 

 悪しき竜が長い尻尾をしならせて崖の側面に勢いよく叩きつけた。

 その衝撃で発生した瓦礫が雪崩となって降りかかってくる。

 


「アオン!!」

 

 ロードはルロウの顔で突き上げられ、

 

「うっわっ!!」

 

 その背中に受け止められた。

 瓦礫の崩落に巻き込まれる前にその場を走り抜けてくれる。

 

 

「なにボーっと突っ立てんだ!!」

 

「あ、ありがとう。助かったルロウ」

 

「危なかったチュウ」「どうなったチー?」「竜が倒せてないチャア」

 

「失敗……いや、できな――」

 

『グオアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 悪しき竜が追いかけてくる。

 

「こんなの追いつかれるに決まってんだろぉぉぉぉぉぉぉぉがあぁ!!」

 

 竜の口から火の粉が漏れ出していた。

 

「まずい!! 火が来っ――――!!」

 

 ゴアアアアアアアア!!

 

 竜の口からため込まれた灼熱の炎が一気に放たれる。

 

「「「チュウチァアアアアアア!!」」」

 

 背後から灼熱の炎が迫り、ただちに竜殺しの剣を向ける。

 

(何とかしてくれ!)

 

 すると、剣は赤い光を灯しだし竜の吐き出した炎を払い散らした。

 

「なんだ!? 何をした!!」

 

「どうやら竜殺しの剣には、悪しき竜の起こす攻撃を払う力があるらしいんだ」

 

「な、なら安心チュウ!!」「そんなわけないチー!!」「ルロウ曲がれ曲がれチャア!!」

 

「わがっーてるよ!!」

 

 道の途中に狭い隙間を見つけて逃げ込むが、

 

 ドダダダダダダダダダ――――ン!!

 

 悪しき竜は狭い隙間を壁をぶち壊すように強引に進んでくる。

 壊されて出来た瓦礫が砲弾の雨のようにこちらに降りかかってくる。

 

「ふっ!! ざけえるなぁ!! こんなのどうしろってんだあ!!」

 

 何とか当たらずに走ってくれる。

 そのとき、目の前に続く崖の上から大きな岩が転がりだした。竜くらい大きな岩だった。

 

「なんだチュウ!」「岩チー!」「早くチャア!」

 

「問題ない! あんなのに巻き込まれん!」

 

 大きな岩が転がり来るより前にそこを走り抜けた。

 しかし、その大きな岩は後ろから追いすがっていた悪しき竜に、

 ゴゴン!! と直撃し、ダダダダ――ン!! と谷の絶壁まで転がり押した。

 

【カバたち】

『『『カーーーーバァアア!!』』』

 

 大きな岩が転がりだした場所から喜びの声が沸き起こる。

 彼らはそこで竜が通りかかるのタイミングを見計らって大きな岩を押し出したようだ。

 

「あん? なんだ?」

 

「あの大岩は竜を狙ってたんだ」

 

 そのとき、隣を並んで走っている者がいた。

 

「ロード、なぜ竜が倒せていない。さっきの煙幕の作戦は失敗だったのか」

 

「それは……」

 

(どうして、オレは失敗した)

(倒せなかったのは……)

(ありがとう……確かに聞こえたんだ)

 

「カリフ王! 竜とは本当に倒さなくてはならない存在でしょうか!!」

 

「なに! それは一体どういう質問だ!」

 

「竜がオレに言ったんです。この竜殺しの剣を突き刺す瞬間に、討伐が果たされる瞬間に言ったのです。ありがとう。……と」

 

「…………」


押し黙るカリフ王。

 

「そ、それがどうしたチュウ」「あり得ないチー」「聞き間違いチャア」

 

「いいや、聞こえた! 絶対聞こえた!」

 

「ならば、あの悪しき竜はお前に揺さぶりをかけたに違いない! 騙されてはならん! ここで倒すのだ!」

 

「し、しかし、竜に言葉が通じるとしたら――!」

 

「今更何を! ここで倒せなければまた大勢の民が傷ついていくと言ったのはお前ではないかロード!!」

 

「――――!」

 

「さぁ! 行くのだ! お前は竜殺しの剣に選ばれている! その役目をまっとうするのだ!」

 

「チャンスチュウ」「竜が動かないチー」「倒すなら今チャア」

 

 大岩をと絶壁に挟まれた悪しき竜はぐったりしていた。

 

「ルロウ! 行ってくれ!」

 

 また走り出してくれた。

 

「今度こそ倒せるか」

 

「……いや、まだだ」

 

 十分竜に近づいた位置で止まる。

 竜は気を失っているみたいだった。

 

 ☆「竜よ答えてくれ! お前はどこから来た! どうしてこんなことをした!」

 

「おい!」「早くチュウ」「剣を刺すチー」「起きちゃうチャア!」

 

「グウ……」

 

 目を覚まそうとしている。

 

(刺せば終わりだ)

(でも、同時に何か別の事も終わるような気がする)

(オレはこの竜が何なのか、知らないといけないんだ)

 

「どうして、ありがとうと言ったんだ!!」

 

「何をしている! 悪しき竜を倒すのだ!」

 

(わかってますけど、確かめさせてくれ)

 

「言葉が分かるんだろ教えてくれ! どうして世界を壊すんだ!」

 

「ウウウウウウ」

 

「オレはお前みたいな敵を知っている! お前みたいな悪い竜を知っている!」

 

(ここが絵本の世界とは違うことを確かめたい)

 

「答えろ! どうして、オレをここに呼んだんだ!」

 

 竜の目が開いた。

 

「……竜殺しの剣、持つ者、聞け、我は竜……」

 

「!」

 

 その巨体に力がみなぎっていくのを感じた。

 

「全ての世界を破壊する悪しき竜だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ドゴゴゴゴゴゴ――――ン!!

 

 目覚めたとたん、力を振るい大岩も絶壁も破壊して動き出す。

 

「竜を倒すんじゃなかったのか!」

 

 すぐさまルロウが引き返していく。

 

「倒す……つもりだ」

 

「なら、早くやらないとチュウ」

 

「でも、その前にアイツが何者で、オレが何を倒そうとしているのか、知らないといけないような気がする」

 

「悪しき竜チー! 世界を壊す竜だチー! チー達の敵チー」

 

「なら、どうしてだ! どうしてこんなにあの絵本と同じ展開になっているんだ!?」

 

「絵本! まさか悪い竜の話チャア! あれは物語の中の話チャア! 今は全然関係ないチャア!」

 

「わかってる! けど、アイツにはまだオレたちの知らないことがある」

 

「お前まさか……あの竜が絵本と同じ奴だと思ってるのか!?」

 

「そうだ。もし、アイツが悪者のフリをしている竜なら……」

 

「目を覚ませロード!」

 

 カリフ王が隣に並んで走って言ってきた。

 

「見るのだこの惨状を。我が国のこの戦場のような有様を! 全て竜が原因だ。あれが悪しき竜でないというのか! 民を傷つけ! 国を奪い! 平和を壊す! まごうことなき悪ではないか!」

 

「それは……」

 

「例え悪でも生きるものの命を奪うことはさぞ辛かろう。一線を超えないための理由を探す気持ちもわかる。だが、やらねばならない。その手にある竜殺しの剣だけが暴れる竜を止めるたった一つの方法なのだ」

 

(わかっているけど)

(……ダメだ。オレはまだ迷っている)

 

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レジェンドオーブ・ロード~オレが異世界最強になればそれだけで異世界平和、最魔の元凶を目指す冒険譚~ 丹波新 @soromon7272

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