第9話 強くはなれなかった

「これ、返すよ」

 

 模造剣と装備していた軽装を持ってきてくれた衛兵に渡した。

 

「惜しかったなロードもう少しで勝てそうだったのに」「なっ! 王子は強かっただろ!」

 

「ん? ああ、うん、強かった。さすが英雄を志すだけのことはある」

 

「だろ~~? 全然勝てないんだよ」「本当はオレたちの方が強くなくちゃいけないのにな~~」

「王子を守るのが仕事だというのに……」「く~~っ! 悔しぃ~~ぞ」

 

 友人たる兵士たちの話を聞くが、時計を確認すると自分が長居していることに気づいた。

 

「……悪いが仕事が残ってるんだ。王子に一泡吹かせられるよう頑張ってくれ、、、また暇なときがあったら様子を見に来るから、そのときはオレの敵討ち頼んだぞ」

 

「おう! 任せときな!」「ロードの戦い方からヒントも得たしな」

 

「……? ヒント?」

 

 少し気になった。

 

「「時代は曲芸戦法だ!!」」

 

 よくわからないことを言って来た。

 

 ギラギラした目を輝かせた複数の兵士たちは、やる気に燃えたようで、騒がしくダダダダダダダダダ!! と走り去っていった。

 

 兵士たちは「「うおおおおおおおおお!!」」と叫び、腕や足腰の筋肉を鍛える特訓を始めたりする。

 彼らだけではない。気づけば周りの兵士たちもやる気に燃え、ここに来た当初よりも激しい特訓をしている。

 

 一人の男が近寄ってきた。

 その男はハンスという名前を持ち、背が高くて、かなりガタイがいい人だ。

 彼はストンヒュー兵団を取りまとめる役を仰せつかった衛兵長の地位についている。

 

「君と王子の試合が皆のやる気に繋がったみたいだ……礼を言うよ」


「……そうですか。それならよかったです……では、オレはこれで……」

 

 一礼して立ち去ろうとしたが、

 

「待ちたまえ、どうだろう。この機会にもう一度キミもここに通ってみないか……?」


「いえ、遠慮しておきます……もう衛兵に未練はありませんから」


「それは……やはり誰と試合しても一度も勝てないからか?」


「そうじゃありません。単にオレが衛兵に向いてないと思うからです」

 

 強がりに聞こえたかもしれない。

 

「……そうか。しかし、先ほどの最後の場面では君の勝ちだと思ったのだがなぁ」

「運が味方しなかっただけには見えなかった……」


「そんなことありません。あれがオレの実力です……王子に失礼ですよ」

 

「む、ん~~そうだな。すまない、聞かなっかったことにしてくれ」


「構いませんよ…………」

 

 そろそろ仕事に戻らないといけないので無理やり会話を切る。

 

「では衛兵長、オレはこれで失礼します」


「あ、ああ」

 

 いそいそと訓練場から退場しようとして、ふと足を止める。

 首を後ろに振り向きかけたが止めて、再び足を進めてその場を後にした。

 ここに未練などないと言ったからだ。

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 宮殿の敷地内を下を向きながら歩いていく。

 誰がどうみても落ち込んでいるとわかるくらい。

 

(やっぱり勝てなかったな~~)

(王子が強いってのも確かだけど……)

(どうしてあの時、手が止まったんだろう)

(いや、言い訳だな……負けは負けだ)

(やっぱり衛兵なんてオレには向いてないんだ)

(もうとっくにわかっていたことだけど)

(……あんなに身体を鍛えたり、剣の特訓もしたのに、誰かと戦うといつも弱くなる)

(一度も勝てない)

 

 ――強くなりたいしさ。

 

(ごめんな、子供の頃のオレ……)

(やっぱり強くなんてなれなかったよ)

 

 顔を上げて空を見る。

 少しの悩みなど容易に消し飛ばす、平和でのどかな青空だ。

 

(けどさ、それでもいいんだ)

(この世界が平和で皆が幸せならオレは強くなれなくてもいい……)

(大人になった今ならわかる)

(この世界は絵本とは違う)

(悪い竜なんてやっぱりいないし、世界を壊す敵もいない)

(なら使用人としての人生を全うすればいいんだ)

(向いてることをすればいいんだ)

 

 そう考えると気が楽になる。

 

(出来ないことはやる必要はない)

(願うことも一つでいい)

(……今日も幸せな世界でありますように)

 

「さて、仕事だ」

 

 気持ちを切り替える。

 だけど、自分の慰め方には苦笑いを浮かべた。

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