第10話 ストンヒュー宮殿の大食堂

 ロードたち使用人たちに昼食の時間が訪れる。

 

 ただいまの時刻は1時過ぎ。

 

 そこはストンヒュー宮殿の大食堂という使用人たち専用の場所だ。

 高い天井を支えるためにしっかりとした柱がいくつも並び、陽光の差し込む窓からは色鮮やかな花の咲いた庭園の景色を楽しむことが出来る。

 一卓の長い机に12脚の椅子で一組として、食堂には数十組の長い机と椅子が並べられている。

 

 ここへ来た使用人たちが食事を受け取るために、厨房のカウンターに並ぶ。

 カウンターのあちこちに、ガラス製の鉢に入れられた仕事中の金魚がいる。

 金魚たちの仕事は食事の注文を受けて厨房に伝えることだ。

 食堂の片隅にいくつかの楽器が置かれ、食事を終えた使用人が暇つぶしに演奏している。

 基本的に人用の施設だがサルやイヌなどといった小型の動物たちもここで食事をとる。

 

 他の使用人たちと同じように、ロードもまた昼食をとるために大食堂にやって来ていた。

 大食堂の壁際に位置する人の少ない奥の方に座り、楽器の演奏に耳を傾けながら食事を楽しむ。

 

 柔らかいパンに、温かい紅いスープ、山盛りの七色の野菜サラダ、クザト豆という変わった豆を使った黒く甘い飲み物。

 メインはブウク・ステーキ。これは食用植物のブウクの実を焼き上げて調理したもの、油滴る肉質の食感はまさに絶品料理だと思う。

 

 それぞれゆっくり味わって食べていく。

 

 右手のフォークでステーキを口に運び食べる。

 左手にフォークを持ち替えて、右手で飲み物を口に運び流し込む。

 左手のフォークでサラダを口に運び食べる。

 

 周りからガヤガヤと聞き取れない話し声やシャキシャキと食器の掠れる音に混じって、一つの足音が近づいてきた。

 

「っちわ~~ロードせーんぱいっ! ここ座ってもいい……?」

 

 一人の女性が自分の食事を持ったまま、何を言っても目の前に座る気満々なのが分かるのに聞いてきた。

 彼女は数週間前に田舎から出てきて、使用人になったばかりの新人のダラネーさん。

 桃色の髪に眠そうな表情。まだまだ使用人服の着付けが緩いように見えるが新人にはよくあることだ。

 取り立てて気にしない。まだ……。

 

「ああ、いいよダラネ―さん……」

 

「やった! じゃー、っただきまぁすぅ」

 

 答えも待たずに席に座ったのに大喜びしている。

 

「……偏り過ぎじゃないか? 果物のケーキしかないぞ」

 

 目に入ったのでつい言ってしまった。

 でもケーキが十個もある。

 

「あっ! 女の子の食事にケチ付けたぁ! ひっど~~い好きなもの楽しく食べたい時間なのに~~」

 

 彼女の気を悪くさせてしまった。

 

「あ~~ごめん。そうだな、別に毎日こんな食事じゃないか」

 

「なに言っへんへふか。毎日ケーキ食べられるって聞いたから~~この仕事っはっひめたんでふよ~~」

 

「そ、そんな理由で使用人に? ダメだろ。ほら野菜あげるから栄養とらないと……」

 

 食べさせてあげようと持って行ってあげる。

 

「や~~だ~~野菜きら~~い」

 

 とてもロードより一つ年上のお姉さんには見えない。

 

「知ってるか? そのケーキで一つこのパンの二倍のカロリーだ。太ってしまう前に考え直せ……」

 

「やぁ~~先輩が怖い話するぅこれってパワハラ? それに太るなんて女の子の身体の話し始めるしぃこれってセクハラ?」

 

「後輩の冗談が怖いから向こうで食べます」

 

 席を立ちあがる。

 

「えーーーー嘘嘘、向こう行かないで~~野菜食べるから一緒に食べよっ♡」

 

 そうして皿ごとサラダを持っていかれてしまった。

 そうされても今の彼女には必要だから文句はない。

 

「じゃあ、このケーキ一つ頂戴」

 

 代わりに小さいケーキを一つ要求する。

 

「は~~~~ひ、どうほ~~」

 

 サラダを頬張りながら差し出した。

 

「どう? 仕事は? ……もう二十日くらい経つけど、慣れた?」

 

「慣れたよ。でも~~み~~んな、かった苦しくって~~苦手ぇ~~仕事教えてくれるのはいいんだけど、もっと楽しくやりたいな~~」

 

「使用人は主人を第一考えてに働くものだから自然と口数は少なくなるんだ。大丈夫……真面目に働いていれば皆といい関係が作れるようになるよ」

 

「むぐむぐ、ホンホニ~~? ロードへんぱい一人で食べへるはら、ごくん。説得力ないよ~~」

 

「ひ、一人じゃないって。ここにダラネーさんがいるじゃないか」

 

「だって~~先輩とはいえ~~ロードくん年下じゃ~~ん。気を使わなくてもいいしぃ~~仕事忘れられるじゃ~~ん」

 

「知り合ったばかりでこんな馴れ馴れしい人は初めてだ……」

 

「あたしも、知り合って1秒で友達になってくれた人初めて~~、でさぁ、ロード先輩は~~知ってりゅぅ?」

 

「何を? 数式の話? 歴史の話?」

 

「そ~~んなつまんないお話しぃ~~女の子にしたら嫌われるぞっ!」

 

「そんなので嫌いにならないでくれ。冗談でも悲しいくなるだろ……」 

 

「あっ! べ、別にあたしは友達を簡単に嫌ったりなんかしないよ。っていうかそうじゃなくて……えっとなんの話してたっけ~~」

 

「何か知ってるんだろ?」

 

「おっ!! そうそう面白い噂を聞いたの! この前仕事してたら~~話声がしてね。なんでもぉ、この宮殿にはぁ、7つの宮殿伝説ってのが~~あるらしくってぇ、それ知ってるかな~~って」

 

「7つの宮殿伝説? いや、聞いたことないけど?」

 

「じゃ、丁度いいからお話しよ」

 

 食事をしながらコクコクと頷いて見せた。

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