第19話 悪い夢なら覚めてくれ
ストンヒュー宮殿・会議室。
「報せを持ってきてくれたチーター殿はどうしているのかニャ?」
ネコの大臣が訊いていた。
「はい、とても疲れた様子でしたので医務室にて休んでもらっています」
それに答えたのはビッシィさん
「悲惨な事件だったろうによく我が国まで報せを届けてくれた」
パレロット王が労う。
「それで、悪しき竜の話だが……歴史家からの見解はどうかね」
大臣の一人が歴史家に訊いていた。
「お言葉ですが王様、私は今まで竜に関しての専門的な書物を拝見したことはありません」
「しかし、資料には少ないがまとめられているように見える」
また別の大臣が歴史家に訊いていた。
「はい、ですがほとんど参考にはならないと思います。伝説上の怪物なだけに絵本などにしか記されてないんです。ここに記載したものとは実物が異なると思います。あくまで共通の認識のためのものだと心に留めておいてください」
「絵本にしか資料がないとはどういうことかね」
「現に竜は存在してるパン? 1冊や2冊、あるんじゃないパン?」
パンダの大臣が意見を出した。
「現在も書庫内をくまなく探していますが……それらしいものは見つかっていません」
「わかりませんね。なぜ今になって竜が見つかるのです?」
孔雀の大臣が誰とも言わず尋ねていた。
「誰か竜をこの目で見たという者は?」
王の一言にしーーーーーーーーんと静まる会議室。
(居るわけがないでしょ)
「まぁよい。問題なのはレオリカン王国で起きたことが我がストンヒュー王国でも起きるかもしれないということだ」
「なんとか~~竜と話し合いはできないものか」
「それができるのなら、レオリカン王国が陥落する事態は起こらないのでは?」
三人目の大臣が訊いていた。
「そもそも、その竜の目的は何なのです? なぜ、ここまでする必要が?」
「それは竜にしかわからないことだニャ」
「王よ。いいかがなさいます?」
「ん~~~~」
「王様! 私にお任せください!」
シャルンス王子が名乗り出た。
『――――ッ!?』
その発言に会議室の面々は驚いていた。
「私が衛兵たちを率いて、その悪しき竜を討ち果たして参ります。レオリカン王国が陥落した今、竜が我が国、いえ世界にとっての脅威なのは間違いありません。一刻も早く危険を排除し民を安心させなくてはなりません」
「王子の言う通りです。竜に目的がない以上、いつこの国に矛先が向けられてもおかしくありません。手遅れになる前にこちらから先に仕掛けるべきだと思います」
ハンス衛兵長が横槍を入れる。
「た、たしかに、竜が今ここに現れたらレオリカン王国の二の舞になってしますな」
二人目の大臣が呟く。
「い、今にもここへ向かっているかもしれないパン? 恐ろしいパン」
「ニャむぅ、兵士長殿。竜なるものを倒す見込みはあるかニャ?」
「なぁに、怪物といえど、生物には違いありません。総勢1000名の我らに恐れるものなどありません」
「彼らストンヒュー兵団は王国が誇る自慢の衛兵たち、このような事態のためは日々訓練に励んでいたのを私は知っております。必ずやご期待に添える働きをしてくれるでしょう」
「王よ。ここは彼らに任せてよいかと……」
「わかった! シャルンスよ、お前に竜討伐の任を与える。見事この国の英雄になって見せよ」
「はい父上。このシャルンス、王国の繁栄と国民の未来に誓って必ずや悪しき竜を討ち果たしてまいりましょう」
パチパチパチパチと会議室を拍手が埋め尽くす。
「王様。国民にはどのような勧告を……?」
「不測の事態が起きた時のために、避難の準備だけはさせておくべきだろう」
「承知いたしました手配します」
ビッシィさんが会議室からせわしなく出ていく。
「衛兵長、今から衛兵たちに竜の討伐を告げたとして武器と十分な食料を準備をさせるのにどれくらいの時間がかかる……?」
王子がハンス衛兵長に訊いていた。
「皆このような役目を心待ちにしておりました。明日の朝までには可能でしょう」
「では明日の朝に出発だ」
こうして、ストンヒュー宮殿の緊急会議で決まったことはその日の内に国中の民たちに知らされることになった。
明日の朝に王子たちが悪い竜を倒すためにレオリカン王国へ出発する。
~~~~~~~~
▼ ▼ ▼
ストンヒュー宮殿・自分の部屋。
真っ暗な部屋で目を閉じるロードは思う。
(悪い竜)
(昔、それが出る絵本をよく読んでいた)
(子供の頃に信じ込み、大人になるにつれ忘れていったけど)
(どこにもいないはずの、竜はこの世界に現れた)
(憧れでもあったはずなのに)
(最悪なことが起きてしまった……)
(悪い竜のせいでレオリカン王国の人たちがい皆命を落とした)
(あんまりだ。ひどすぎる)
(人が何人もいなくなってしまうなんて)
(涙が出て眠ることなんて出来ないよ)
(不快感と悲壮感が凄いな)
目を強く閉じ何かしら溢れそうなものを堪える。
唇が震えだし呼吸を乱そうとするが強く閉じておく。
(街の皆もこうなんだろうな……)
(王様たちもかなりのショックを受けていた)
(どうしてそんなことが起きたんだ)
(これは現実なのか……?)
(どこかまだ、遠い所の話に感じる)
(誰かが命を落とすなんて……)
(想像もできない)
(怖い)
(怖い)
(ここにも竜が来るかもしれないと思うと)
(冗談だと思いたい)
(ここが夢の中であってほしい)
(悪い夢ならば早く覚めてほしい)
(実は何かの間違えで、まだレオリカン王国の皆が生きていると思いたい)
(これからどうなるんだろう)
(何とかなるんだろうか?)
(わからないわからない)
(何ともならなかったら……)
(そんことない。想像しないほうがいい)
(でも)
(不安だ……不安で眠れない)
(こんなことなら、やっぱり兵士になっていればよかっただろうか)
(いや、弱いオレには何もできない王子たちに任せよう)
(オレにできることはただ願うこと、それくらいしか出来ないだろ)
(今日も願おう……)
(一刻も早く、悪い竜が世界からいなくなりますように……)
(幸せな世界に戻りますように……)
そう、願いながら僕は深い深い眠りに落ちていく。
ただ、僕は真っ暗になる意識の中で思う。
本当の願いを。
(これ以上何も起きないで……)
(お願いだから壊さないで……)
(あの絵本を悪い物語みたいにしないでくれ……)
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