第18話 悪しき竜が現れた
ストンヒュー王国に深い夜が訪れた。
どこか胸騒ぎを覚える濁った暗闇に街並みは黒く染められる。
しかし暗闇の街にはポツポツといたるところに光が灯っている。
ストンヒュー宮殿の敷地内にもポツポツとあちこちで光が灯っている。
光の正体はストンヒュー宮殿の衛兵が手に持つランタンである。
彼らは現在、夜の見回りをしているのだが、いつもより人員が多く配置されていた。
緊張と不安の入り混じった顔つきの衛兵たちはときどき夜空を見上げ何かに警戒している。
それは夕暮れどきに舞い込んできた一つの悪い報せを作った原因になった存在だった。
ちなみに見回りにはコウモリやホタルなども参加している。
◆ ◆ ◆ ◆
ストンヒュー宮殿・ロードの部屋。
時刻は10時過ぎ。
眠りを迎えようとしていた。
「…………(外が気になって眠れない)」
「……ロードいつまでも外を見てても無駄チュウ」「明日に備えて寝るチー」「街は衛兵の皆に任せてるチャア」
机の上に置かれた寝床に入って言ってくる。
「……わかってる」
掴んでいたカーテンから手を離し、窓に広がる暗闇から目を離す。
カーテンを背にもたれかかる。
「明日はジョギングを中止して、王子たちの見送りか……」
「心配するなチュウ」「きっと大したことないチー」「そうチャア、なんかの間違いチャア」
「……そうだな。悪い竜なんて実在するわけないか」
部屋を照らすランタンの光を消すためにスイッチに手を掛けて、
「……おやすみ」
「「「おやすみチュー」」」
カチッと小さな音がして部屋から光が消えた。
暗闇の中を移動する。
ベッドに身体を倒して、全身の力を抜いて沈んでいく。
けれど、眠りにつくにはまだ時間がかかるようだ。
頭の中であることを思い返している。
レオリカン王国からの悪い報せが眠りにつかせてくれない、妨害してくるんだ。
レオリカン王国とは主にライオンたちを筆頭にして治められた谷の国。
そして、ストンヒュー王国がずっと昔から同盟を結んでいる国のこと。
ここから南西の方角に位置するその国は人の移動では三日ほどかかる。
(……あり得ない)
信じられない報せを夕方に聞かされた。
◇ ◇ ◇ ◇
本日の夕方頃。
レオリカン王国から一匹のチーターが驚くべき報せを持ってストンヒュー王国にやって来た。
それはまず門番の耳に入り、次に兵士たちの耳に、さらに王子の耳から王様の耳に、最後に王様が国民全員に知らせるようにした。
報せの内容はとても信じがたいものであり、宮殿から国中の民たちまで
チーターの報せは、『突如、どこからともなく現れた竜と思しき怪物がレオリカン王国全土に甚大な被害をもたらし陥落させた』というものだった。
◇ ◇ ◇ ◇
~~竜が現れたときのレオリカン王国~~
そこは大きな岩の山に見える千尋の谷でした。
レオリカン王国という、ライオンの王様が治めている谷の国です。
谷のいたるところに家が建ち、洞窟が掘られています。
さらに足場が設けられ、橋が架けられて一つの街として機能しています。
頂上にも立派な宮殿が建てられており、王族であるライオンの住処となっています。
その国でも、人と動物の民は変わらない幸せな日々を送っていました。
ところがその日の朝、凄まじい轟音が国中に響き渡りました。
驚いた王様や民たちは空を見上げて信じられないものを瞳に映しました。
それは、おとぎ話や絵本にしか存在しないとされた伝説上の怪物でした。
真っ黒な竜が空を飛んでいました。
突然の出来事です。
真っ黒い竜は、手足や尻尾を使って谷を壊し、翼をはばたかせ街を吹き飛ばし、口から灼熱の炎を吐いて国を燃やしていきました。
その怪物は誰が見ても悪い竜にしか見えなっかたでしょう。
レオリカン王国の悲惨な光景に人や動物は、悲鳴をあげ、逃げまどいました。
ライオンの王様も衛兵を連れて、竜に抵抗を試みますがとてもかないませんでした。
そうしてライオンの王様と民たちは命を落としていきました。
誰も助かりませんでした。
こうして、その日レオリカン王国は悪い竜の物になってしまったのでした。
~~~~~~~~
◇ ◇ ◇ ◇
それがレオリカン王国から逃げて来たチーターの報せの内容だった。
それから夕暮れ時にも拘らず、宮殿で王様たちによる緊急会議が行われた。
話の内容はもちろんレオリカン王国に現れた悪い竜。
宮殿会議室の大きな卓上に王様や大臣、王子や衛兵長という人も動物も関係ない面々が揃う。
このとき使用人としてロードも壁際に控えていたので会議の内容を聞いている。
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