第17話 ここには強さがない
ストンヒュー宮殿。
玄関ホールの階段を上がり、宮殿内を迷うことなく奥へ奥へと進んで行く。
予め王様の居る場所に目星を付いていて、軽い足運びでその部屋の前に到着した。
大きな扉を静かに開けて中に入る。
そこは絵画の広間。
壁には様々な絵画が掛けられて、じっくり鑑賞するための高級なソファーもいくつか置かれている。
自画像に風景、食事を楽しむ動物たちに抽象的な絵、何百枚もの絵に広間の壁は埋め尽くされていた。
しかし壁が絵に埋もれる中、一か所だけ真っ白な面を見せる大きい額縁があった。
不思議なことにどの絵よりも目立っていた。だが、それは絵ではない。
「ん~~~~~~」
真っ白な面の額縁の前でソファーに座り込んだ男性が何やら考え事をしている。
男性は高貴な正装に赤いマントを上から羽織り、頭には冠を乗せている。
その方こそストンヒュー王国の現国王様、偉大なるパレロット王だ。
「そこには何か、凡人には見えないものが描かれているんですか?」
真っ白な面を見ながら聞いてみる。
「ん? ああ、ロードか……べつに何かが描かれている訳ではない。かと言って私は紙に見とれるほど頭の方がおかしい訳でもない」
「は、はー」
「ただ私はここに何を見るべきかを考えているのだよ。この広間にある絵を描いてきた時と同じようにねぇ」
「そいえばここの絵、ほとんど王様が描かれているんでしたっけ?」
「うむ、そのとおりだ。しかしこの度、私の絵画への情熱はこの紙に何を描くべきか答えを出せないでいる……だから、本来完成してから設置する予定だった場所に、あえて白紙のまま飾ることで、ここに相応しい絵を見出そうとしているのだ」
「……なるほど。何を描くか考えるために」
考えてしまいそうになったが、本題に入る。
「それはそうと、オレを呼んでいたと聞きましたが?」
「そうだとも……君はよく絵本を読んでいただろう?」
「はい、まぁ……」
「書庫に閉じこもるほどの事件もあった。今では懐かしいことだ、ははは」
「あの~~王様?」
「うむ、それでなぁ、絵本を読んでいた君ならばこの白紙の額縁に何か見えるのではないかと思ってね。どうだろう、君ならばここに相応しい絵を見いだせないものか?」
「……生憎お役に立てそうな相談事ではないと思います。絵本は読みますが~~絵はからっきしダメなんですよ」
「構わんよ。何か直感でもいい。ここに足りないと思う絵でも、何でも言ってくれ」
「直感で~~ここにない絵ですかぁ」
辺りに飾られた絵を見渡してみる。
「強さ……ですかね」
「ほう、強さがここには足りないと?」
「その~~オレは絵本を読んで育ってきたので、その好きな絵本には強大な敵と戦うお話があったんです……ここにはその敵と戦う強さがいない」
「ふむ、強さとは難しい話だ。そもそも世界の歴史の中に争いはなく、敵などと呼ばれるものなどいない。強さを描こうにもそれを向けるべき敵がわからない以上、私には描くことはできないだろう」
「……すみません。やっぱりお役には立てないみたいですね」
「いや、着眼点は悪くないのだ。だが、私には具体的にそれを表せるだけのものがないというだけの事……」
「はぁ……オレにはよくわかりませんが……」
「なんにしても、ヒントはもらった。礼を言おうロード」
「……完成楽しみにしてますよ。絵を見るのは好きなので……」
バァーン!! と突然、勢いよく扉が開いた。
王様と二人して驚くと扉を開けた人物は意外な人だった。
王子が血相を変えた顔色で入って来た。
日頃の彼ならこんな扉の開け方もしないし、慌てて部屋に急ぎ足で入ってくるようなことはない。
「ここに、おいででしたか。父上、いえ王様」
息が途切れていたので、かなり急いできたようだ。
「なんだシャルンス、扉は静かに開けんか」
「それどころでは、ありません。王様、落ち着いて聞いてください」
「んん?」
(こんなに慌てた王子は初めて見た)
その声色からは何か深刻な問題を感じ取れた。
「我らの同盟国であるレオリカン王国が……あ、」
だが、予想を遥かに上回る問題だった。
「悪の竜によって陥落させられました」
( えっ…… )
それは絵本の中だけの世界の話で、現実にはあるはずのないことだった。
けど、確かに王子は口にした。
嘘と疑わせない真剣な声が耳の奥まで知らせて来た。
どこかでそれが叫んだ声が聞こえてくるくらいの衝撃が走る。
あり得ないことのはずなのに……。
この世界に悪い竜が現れた。
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