第24話 被害に遭った地への支援活動

 ロードは王様から竜の被害にあった街や村を支援するようにと、活動団体の代表を頼まれた。

 支援活動するにあたって王国が用意した物資は主に飲み物と食料、毛布に衣類、ランタンや絵本。

 それらの荷物を20以上の荷車に積み上げ、ゾウに一列に並ばせて牽いてもらう。

 ダラネーさんと複数の使用人を引き連れ、さらに支援活動に協力を志願してくれた一般市民と共に王国から出立した。ちなみに3匹のネズミも同行している。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 野原。

 出立して2日目の昼頃。

 見晴らしのいい野原を一同が通る。

 支援物資の必要な街や村は5カ所あり、そのうち2カ所は無事に届け終わった。

 ゾウの牽く荷車の数台に減っていた。

 

 僕は先頭のゾウに腰掛けて、地図を見ながら目的地へ誘導する。肩や頭にはネズミたちがしがみついている。

 地図にはいくつかの街や村が〇で囲まれ、それが物資を届ける目的地になっている

 届けた場所には✕で印が付けられ、、残りは3カ所になっていた。

 

「まだチュウ? 暇チュウ……」

 

「そろそろ次の村が見えてくるから少し待ってろ」

 

「チーそれにしても平和チー。竜がここを通ったなんて思えないチー」

 

「この辺りはいつも羊の遊び場なってる。それが今はいない、皆は竜におびえて出て来られないんだ」

 

 

 野原には他の生き物の気配がない。とても静かだが、後ろからついて来る支援活動のメンバーの話し声が聞こえてくる。

 

「おい! 見ろチャア、凄い焦げ目チャア」

 

 頬を叩かれたので目を向けると、野原の一部が焼失している黒々とした土を見せられた。

 それと同じものが辺りにいくつかあることに気づく。

 

「だいぶ焼け焦げたみたいだな。これが竜か……恐ろしいな」

 

「こんなの地獄チー、チーターさんもきっと怖かったチーな」

 

「それも王子たちが竜を討伐するまでだ。そしたらまたここも羊たちでいっぱいになる」

 

(王子ならやってくれる……あの人は英雄になる人なんだ……)

 

「でも、竜に襲われた街や村に今のところ“犠牲者ぎせいしゃ”がいなくてよかったチュウ」

 

「ああ、ほんとにな。これから向かう場所も犠牲者ぎせいしゃがいなければいいな」

 

 その目的地の村が見えて来た。もう一息で到着だ。

 

「おっ! 見えて来たチュウ」「お昼ごはんチー」「ゾウのおっさんに急ぐチャア」

 

「はいはいパオ」


 ロードの乗っていたゾウさんが言う。

 

「けど、着いたらまずは村の人たちに物資を配るから、ごはんはその後だ」

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 カゴラ村。

 自然豊かで見晴らしが良く、のどかな空気に満ちていて、木の柵に囲まれたかなり広い村。

 それがここカゴラ村の本来の形だったはずなのだが、竜に襲われたおかげで無残にも家や小屋は焼かれ、細い川は干上がり、木々も倒れている。

 

 僕ら支援団体はこの地に到着するとすぐに支援活動に取り掛かった。

 怪我をしている人がいたようなので、ルロウのときのように出来る範囲のことはしておく。

 木箱に座って怪我をしている人たちを集め順番に見る。

 

「一旦、そのまま固定しておいて、また医者に見せにいらしてください」

 

「な、治りますか?」


 村の人が訊いてきた。

 

「折れた腕は治るのに数か月掛るかもしれませんが、大丈夫。治りますよ」

 

「ありがとう。な、治るんですね。よ、よかったよ~~うっぶぐぅっうっ」

 

 今までため込んでいた涙なのか……不安が和らいでた一気にあふれ出したみたいだ。

 

「もう、大丈夫です。さぁ涙を拭いて」

 

 拭うための布を渡してあげる。

 

 今度は羊の怪我を見ていると、小さな杖を持った年老いたタヌキがやって来た。

 

「代表さんこの度はわざわざ遠くからご足労頂きまして、ありがとうございますポン」

 

「あっ村長さん。いえ、来るのに遅れてしまったのはこちらの方です」

 

「とんでもない。我々は皆さんが来ていただいてくれただけでも十分嬉しいのですポン」

 

「そうですか……」

 

 羊の怪我を見終わって解放してあげる。

 

「あとは任せます。傷のある人にはこの塗り薬と……それとこちらは我が国の宮殿医師による治療手順を書き記した書物です」

 

 傷の処置を手伝ってくれていた村人の女性に渡す。


「う、うう……これが、あれば、いいんだな。や、やってみるよ……」

 

「ははぁ~~ほんと何から何まで助かりますポン……」

 

「犠牲者が一人もいなかったと聞いたので安心しました」

 

「それは私どもも同じですポン」

 

 その場は女性に任せ、休憩を取るために離れて行く。

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 座ってネズミたちと食事をしていると、遠くの方だが元気な声の人が目に入る。

 

「は~~い、みなさ~~ん! ちゅうも~~く! こちらの準備が出来ましたので順番に並んでくださ~~い! 慌てなくてもちゃ~~んと食べ物はありますからね~~!」

 

 紙束? を丸めて喇叭のように口元に抑え、声を放っていた。

 

「やっぱりこういうとき、ダラネーさんは空気を良くしてくれるな」

 

「そうチュウ? こういう暗い時は気を使うもんじゃないチュウ?」

 

「こういうときだから、元気な人だろ……?」

 

「チー、それはわかるチー」

 

「あれ? とこでツアはどこ行った……?」

 

「食べ終わったらどっか行ったチー」


「ロード! こっちこっちチャア!」

 

 噂をすれば背後から小さな声がかかった。

 

「……?」

 

「この子達が絵本が欲しいって言ってたから、連れて来たんだチャア」

 

 数十人くらいの子供たちが集まっていた。その一人のこの頭の上にツアがいる。

 

「あっ! 絵本も配るんだった……」

 

 

 ▼ ▼ ▼

 

 

 食事を早々に終わらせて、近くのそれが積んである台車に向かい出してあげる。

 子供たちが静かにゆっくり絵本を選んでいる。

 その間ずっと見守ている。と、何人かこちらに話しかけてきた。

 

「これ、どんなお話?」

 

「それはね~~空から落ちてきた星が新しい生活をするお話なんだ」

 

「これがいい」

 

「ああ、子供が一日だけクジラに変身するお話か。それ面白かったよ」

 

「どれがいいかわかんない」

 

「ん~~たくさんあるからな~~」

 

(オレがこの子くらいの頃に読む絵本だったら……)

 

 10才くらいの男の子用の絵本を子供たちの後ろから探してみる。

 

「!」

 

 ふと、台車の隅に置いておいた自分の荷物である鞄が目に留まる。

 肩に提げることで持ち運ぶタイプの鞄。そこから一冊の絵本を取り出す。

 それをさっきの男の子に持っていく。

 

「……これなんかお兄さんのオススメだ。『レジェンドオーブ・スライム』。オレがキミくらいの年の頃に160回くらい読んだ絵本なんだ」

 

「絵がなんか変。面白くなさそう」

 

 かなり傷つく言葉を言われた。

 

「……ま、まぁ、読みにくいかもな」

 

 押し付けは良くないのでお勧めの絵本を取り下げた。

 

「じゃあこっち、ごはん兄弟」

 

 ほとんど落書きのような絵だが、わかりやすい話だ。

 コンチキショウガ!! とか、アヒャハハハハハ!! とか品性のない言葉が多いのだが……。

 

「おお。こっちのほうが面白そう。ありがと」

 

 喜んでくれたのでとりあえずよかった。

 

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