第23話 辛い話

 ストンヒュー宮殿・玉座の間。

 玉座には座らず窓の外を眺めている王様。

 同じように窓の方に近寄って話を聞くことにした。

 

「ロード、大変な話がある」

 

「オレはやっぱりここから追い出されるんでしょうか?」

 

「抗議するチュウ」「はんたーいチー」「納得できないチャア」

 

「まてまて、何の話だ? そんなことはせんよ」

 

「ほっ……」

 

 安心して緊張がほどける。

 

「ロード。今朝、竜の討伐に行った衛兵たちによる伝令があった」

 

「王子たちの!? ということは竜の退治が終わったのですか?」

 

「いや、まだだ、おそらくレオリカン王国に着いてすらいないだろう。つくとすれば今日中か……」

 

「では、竜との戦いは明日以降ですか」

 

「そうなるな……実は大変な話というのは竜に襲われた町が他にもあるらしいのだ」

 

「えっ、竜はレオリカン王国にいるのではないのですか?」

 

「まぁ待て、客人の話を聞いた方がいい」


 少し間が開くと玉座の間にビッシィさんが現れた。


「王様お連れしました」

 

「ご苦労。入ってきてくれるか」

 

「?」

 

 そのとき、玉座の間に見知らぬ顔の動物が入ってきた。

 その動物は真っ黒い体表のチーターだった。

 包帯を巻かれていて一目で怪我をしているのがわかる。

 首元にとても美しい黒の丸い宝石が下げられていた。

 彼は先日、竜に襲われたレオリカン王国から怪我をしたにもかかわらず、このストンヒュー王国に急いで報せを持って来てくれた使者だった。

 

「ここからは彼の体験を聞いてほしい」

 

「レオリカンの使者殿につらいことを思い出させなくても……」

 

「お話させてください」


 辛そうな声で黒いチーターが言う。

 

「ロード、彼の勇気を尊重して聞いてあげなさい」

 

 見れば見るほど痛々しい姿をした黒いチーター。

 

(被害を目の当たりにしたから、そうとう辛いだろうな)

(怖いけど、知っておくべきだ……)

 

「……わかりました。聞かせてください」


 機械の様に無機質な声は被害にあったからだろう。

 ビッシィさんの用意した椅子につき、楽な姿勢で語り始める。

 

「私の故郷を襲った真っ黒い竜はそれはそれは恐ろしい怪物でした」

「口から吐かれた炎の波に街は呑まれ、大きな巨体が谷を壊していきました」

「そのせいで王様と私の同胞たちは命を散らしてしまったのです」

「私は王様の最後の命令を成し遂げるため、ここに竜の話を届ける役目を仰せつかりました」

「しかし、悪しき竜は王国と同胞たちを奪っても、生き残った私を追いかけてきました」

「私は逃げました。必死になって逃げました」

「悪しき竜は私を追う途中、いくつもの街や村にも被害をもたらしました」

「私は逃げることで精一杯だったので、助けることは出来ません」

「それでも“あんな恐ろしい出来事はあってはいけない”そう思って痛む身体をこらえてひたすら走りました」

「そうしてここまでたどり着きました」

 

「ここまでが私の体験したことです」

「あなた方の命まで竜に奪われるわけにはいきません」

「あなた方の他にもう竜と戦えるものがいないからです」

「私はあなた方に我が国と同胞たちの仇を討ってほしいと考えています」

「その一心で私はあの時の出来事を皆さんお伝えしにここへ来たのです」

「この話がお役に立てることを願います」

 

 

「つらいチュウ」「チーチー」「泣くんじゃ、ないチャア」

 

 3匹とも泣いている。無理もない。

 

(……本当に悲しいな)


「ありがとう使者殿。もう下がってよいぞ」

 

 黒いチーターはビッシィさんに連れられて玉座の間から退出した。

 

「ロードよ。今の話で彼が逃げるときに別の街や村に被害が出たのはわかったな」

 

「つまりオレに、その町や村に行って被害にあった者たちを助ける役目を任せたいというわけですか?」

 

「うむ、物資や食料は十分用意した。お前にそれを届ける支援活動の団体の代表を任せたい」

 

「どうして、オレなんです?」

 

「君のお友達、ダラネーというという使用人からある話を聞いたのだ」

 

「ある話?」

 

「宮殿伝説というものだ……なんでも君の事ばかりが伝説だったと話していたよ」

 

「あ~~あれですか、裏の執事長だけは心あたりないので……」

 

「ははははは、わかっているとも」

 

「その伝説がなんですか?」

 

「六つ目だったか? なんでも君は怪我をした者を治せるというではないか。それも神様のような力で」

 

「違いますよ。オレは少し怪我の手当が出来るくらいで、皆それを勘違いして不思議な力だとか、神様のような力だとか言ってるらしいんです」

 

「そうだろうな、だが先日、旅のオオカミを治療したと聞いたぞ? 彼は今日にも足が治ってまた元気に走り回ったそうじゃないか」

 

「そ、そうなんですか? でも彼の治りが早かっただけでしょう」

 

「まぁ真実はこの際どうでもいいのだ。竜がいる現状、医者は何よりも重要な存在だ。今彼らをこの国の外に出すのも決断しかねる」

 

「ということはロードの出番チュウ」「きっと竜に襲われた町や村は怪我人がいるチー」「神様って伝説があるロードが行けば、縁起はいいチャア」

 

「そういうことだ。頼まれてくれるか?」

 

「それは……はい、オレに出来ることなら、お引き受けします」

 

「では、ロードには支援活動に尽力する任を与える。竜の被害に苦しんでいる街や村を手助けしてくるのだ」

 

 こうして、次の日には支援活動の代表として数頭のゾウに荷車を牽かせて王国を出た。

 この任をきっかけに人生が大きく変わることになるとは夢にも思わずに。

 

 ロードは王子の行く、勇ましき王の道につづくのだった。

 

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