第22話 楽しい話
ネズミたちを乗せて宮殿の敷地内を歩いていた時。
「お~~い、ロードせんぱ~~い、お~~い」
食堂へ向かっている途中に元気な声でダラネーさんに呼びかけられた。
スキップしながらブンブンと大きく手を振りこちらに近づいてくる使用人が見えた。
「……やぁ、ダラネ―さん。何か用?」
「ロード先輩に大変なお知らせがあります」
「どうした?」
「実は……あー! 言えない! だって大変なことだもん!」
「やっ、早く言って。オレこれから昼食を食べにいくんだ」
「わかりました。言います」
「……………………」
「やっぱりダメ! 言えない!」
「あ~~わかった。もうお昼は済ませたので一緒には食べられませんだろう?」
「違います! もっともっと大変なことです!」
「んん? じゃあ……もう、たくさん友達が出来たからオレとは一緒に食べられないってこと? ダラネーさんおめでとう。オレは少し寂しけど……よかったな」
「もう! 違います! さらにさらに大変なことです! 私たちのそんなみみっちい関係が踏みつぶされるくらいの!」
「早く言ってくれないか?」
「……ロード先輩、実は…………ダメ! 言えない!」
(おい……)
「ったく、ロードも鈍いやつだチュウ」「こういう時は黙って待ってやるチー」「それが男チャア」
「何の話だ?」
「つまりだチュウ」「この女は今から」「ロードに愛の告白するチャア」
「――――うえっ!?」
「えっ? しないよ……」
「……はぁ」
「え~~どうしよ……純粋な眼差しの人に……い、言えない。私言えない」
「わざとらしいぞ~~ダラネーさん。オレもう行くから」
立ち去ろうとするとしがみついてきた。
「まっ、待って! わ、わかった。ちゃんと言うから……」
話してくれる気になったようなので向き直る。
「王様がロード先輩をお呼びです」
「王様が? 何の用だって?」
「ここからは私言えない! 王様に直接聞いてほしい……ロード先輩にとって大変なことなの!!」
「ダラネーさんとの関係が変わって、オレにとって大変なこと?」
「「「ここから追い出されるチュー!?」」」
「……そんなわけないだろ? ないだろ?」
「王様に~~聞いてねっ」
「こわい…………」
「早く行って真実を確かめてきたらいいですよ~~」
「ああ、行ってくるけどさ、追い出されたら励ましてくれる?」
「……………………」
「そこで黙ると真実味が増してくる……」
すっかり元気がなくなってしまった。
とりあえずポケットから輪の形で作られた時計を取り出し時間を確認する。時刻は2時に差し掛かる頃。
「まぁ食べなくてもいいかーー」
「チュウ!」「やだチー」「お腹すいたチャア」
「オレは食べてる場合じゃないのさ」
輪の形をした時計をしまい、王様に会いに足を進める。
がっくりと肩を落としていたことだろう。道に沿ってトボトボと歩き、ダラネーさんに疲れ切った背中を見せてしまう。
「せ~~んぱ~~い! うっそでぇ~~~~す! なんか知らないけど~~~~。王様がぁ~~よぉ~~んでました~~」
ロードが振り返ると、彼女は笑顔で元気よく手を振っていた。投げかけられた言葉にも悪意はない。
「「「……嘘つきチュー」」」
「なんだ冗談か……」
ただ、彼女は一連の会話が楽しかったのだろう。
とても幸せそうないい笑顔だった。
(……こんな時によくあんなに楽しそうに出来るなぁ)
(いや、悪い竜なんかの話よりダラネーさんの冗談に付き合うほうがやっぱりいいな)
手を振り返してあげると、彼女は大喜びで飛び跳ねた。
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