第31話 はちーーとくまーーの蜜飴屋さん
皆の家で一夜を過ごした僕らは朝食を取った後すぐに出発した。
昨日と同じようにルロウに跨り移動のための足になってくれた。
木漏れ日差し込む林をペースを崩さず走るルロウ。
こうして僕らはミャーガン山を目指す。
林を抜けると先に見えたのは深い森。
止まることなくルロウは走り続ける。
▼ ▼ ▼
道中の森。
森には大きな木がたくさんあって晴れ晴れとした空を隠す。
落とされた影がどこまでも続いて森を涼しくさせる。
辺りには大きなキノコや大きな木の実が至るところにあった。
▼ ▼ ▼
昼の13時過ぎ。
一行は森の中で一休みをすることにした。
昼食を取るために辺りを散策し、木の実やキノコを探したりしている。
ネズミたちが木に登ったり、走り回って食料を探している。
ルロウと二人で見つけたところから取っていく。
「このキレイな艶やかなキノコはどうだ?」
偶然自分でキノコを見つけたので聞いてみる。
くんくんとルロウがキノコの匂いを嗅ぐ。
「……ダメだこりゃ、弱い毒がある」
キノコを元あった場所に戻す。
「それにしても凄いな。匂いを嗅ぐだけで毒があるかどうかわかるなんて、このキノコどういう匂いがしたんだ?」
「なんて言ったらいいか……毒のあるキノコは〈死の匂い〉があるんだよ」
「ふ~~ん、よくわからないけど、オレもそういう能力ほしいなぁ」
護身用の剣で大きな木から実を取る。
「人にもできなくはない、どっかの国でオオカミたちが教えててな。人がやってるところを見たことがある」
大きな木に生っていた木の実を、口に咥えた石を飛ばして落としていた。
「それじゃあ、オレもできるようになるか?」
「ただ、習得に2年くらいかかるらしい……」
「うっ……長いなぁ。まぁいいか、できるようになったら便利だろうし王国に帰ったら調べてみよう」
「やっぱ変わってるな、お前」
その時パキパキと誰かが枝を踏む音が聞こえて来たので、ネズミたちも戻ってきて、皆で一緒にそっちを見る。
「あの~~きみ達~~ちょっといいくま~~」
森を進んでこっちに近づいてきたのは一頭のクマさんだった。
「チュウ?」「クマさんチー?」「オレたちに何か用チャア?」
「うん、ぼくぅ、この近くでぇお食事のお店をやっているんだ~~、よかったらぁ食べにぃ来ないくま~~」
「おい、どうする?」
「せっかくだけどやめておこう。食事の準備は出来てるんだ……」
「そっか~~じゃあさ~~試食だけでも~~してくれないかな~~気に入ったら~~こうゆうお店があるって言いまわって欲しいくま~~」
「タダ飯チュウ?」「行こチー行こチー」「ロード行こうチャア」
「……わかったわかった、クマさん案内してくれるか?」
「じゃあ、ついてきてぇこっちだくま~~」
とにかく森で出会ったクマさんについて行った。
▼ ▼ ▼
「ここだよ~~」
わりとすぐに到着した。
案内されたのは森にしては広々としたところ。
そこにはゾウくらいの大きさの荷車が屋台として佇んでいた。
いくつもの飾り付けが、まるで黄色いケーキのような店に仕上げていた。
「はちーーとくまーーの蜜アメ屋さん?」
屋台に取り付けられたひときわ目立つ看板に、店の名前が書かれていたので読み上げた。
「おい! どーこほっつき歩いてたブン! 仕事しろ! のろま!」
店から小さなハチが出てきてと思ったらクマさんが怒られた。
(今度はハチさん)
「お客さん、さがして来たくま~~」
「客?」
ハチさんがクマさんの影に隠れていたこちらに気づいた。
「こいつらか……代価はちゃんとあるブン!」
「試食チュウ」「食べさせてくれるって話チー」「オススメはなんだチャア」
「帰らせろ!!」
チクチクとした小さな声で怒っていた。
「そんなこと言っちゃあ、ダメくま……この人たちに気に入ってもらえればぁ、たくさん、おん客さん来てくれるくま~~」
「旅のオオカミがいるぞ! こいつら他者と関わらないことで有名ブン! 宣伝なんかしないブン!」
「失礼な奴だな。たしかに話は苦手だが、ウマけりゃどっかで口は滑る」
機嫌が悪くなっていた。
「不味けりゃまた逆もあるが……」
(あれっ? 今、余計なこと一言つけたよな……?)
「何だブン!!」
どういう意味かハチさんはわかったようだ。
(偏見を持ってるハチさんもだけど、挑発するなよ……)
(口喧嘩が始まる前に場を治めよう)
ルロウとハチさんの間に入り話題を強引に変えるんだ。
「こんにちはハチさん。オレはストンヒュー宮殿で使用人をやっているロードっていうんだ。試食を頼まれたけど、気が進まないなら帰るよ。でも、食べさせてくれてちゃんとおいしいモノだったら皆に話してみるよ。この、はちーーとくまーーの店のこと」
改めて看板を確認しながら交渉してみた。
(なに!? 宮殿の使用人!! ストンヒューの!!)
――とは声に出して言わなかったが、そういった反応を身体に見せていた。
「失礼しましたお客様! 先週、念願の開店を果たしたのですが~~場所が悪いのか客足はさっぱりでしたもので少々イライラしておりましたブン」
(わかりやすいハチさんでよかった)
「まぁいいが、気を付けろよ」
「はい、それでは気を取り直して……」
「え~~皆さま、ようこそ、ワタクシ共、はちーーとくまーーの蜜アメ屋へおいでくださいましたブン。ワタクシ店主のスズメバチ、キケナと申します。こっちは相棒のブクマでございますブン――挨拶!」
「おおん、してなかったくま? よろしくくま~~」
「ワタクシ共は遠く小さな国からこちらに移住してきたばかりで……まだみすぼらしい店ですが歓迎いたしますブン」
「移住? 何でまた?」
「ワタクシ共の故郷の味を少しでも世に広めるためにですブン」
「こんな、おいしいものぉ、世界の皆が知らんないのは勿体ないくま~~」
「ええ……世の中どこにでも行ける者たちばかりではありませんから、ましてや、ワタクシ共の住むような小さな国にわざわざ来てくれる者もいませんブン。ならば、こちらから教えに行けばいいとここで店を開いたのですブン」
「ありがとう」
「へっ?」
「どうした? 泣きそうになってるぞ」
「感動したんだ……オレずっと宮殿暮らしで、別の国に中々行けなくて……こんなのあるんだってずっと知りたかったんだ」
「そういうことかチュウ」「こういうの知らないもの食べたいってよく言ってたチーな」「それが向こうから来たわけチャア」
「そうでしたか! ワタクシ共が故郷の味を届けたかったのもまさにあなたのような人! ささ、どうぞどうぞ! こちらへ! 当店自慢の蜜アメを今回は特別に振る舞って差し上げましょうブン」
そこには宝石のような色とりどりのアメという食べ物があった。
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