第34話 生物たちの危険予知

 ミャーガン山・麓の森。

 山に入る前の森に戻るとルロウとの旅がようやく終わりになる。

 

「さて、オレの案内も終わりだ。後は自力で帰れるだろ」

 

「ああ、案内してくれてありがとうルロウ」

 

「楽しかったチュウ」「また、旅チー?」「どこ行くチャア?」

 

「さぁな……オレの気の向くままさ」

 

「オレもいつか旅に出るからさ。縁があったらまた会おう。火起こし石とか、死の匂いとか、遠吠えとかマスターしておくからな」


「その時は採点してやるよ」

 

 何気ない話をしているとガラガタガラガタと荷車の通る音が聞こえて来た。

 

「ブン? おや、またお会いしましたか! 皆さん」

「昼ぶりだくま~~」

 

「キケナとブクマチュウ」「チー」「何でいるチャア?」

 

「はぁ、どうも竜の話が気になりまして、ご忠告を受けようかと……というんより、そっちで商売したん方がいいんだんて」

 

「ん?」

 

 ルロウが何故か、全く関係ない方向に顔を向けた。

 

「そうか、この先に立て札があるからそれに沿って行けばいいよ」

 

 指を差して方向を示してあげる。

 

「どうも……ブクマもうひと仕事だ!」


「うん」

 

 クマさんが一人で荷車を牽いていく。

 

(手伝った方がいいかな……)

「あのさ――――」

 

「おい、なんか騒ぐぞ……?」


 ルロウがそう言う。

 

「えっ?」

 

 森に意識を傾けると風がはっぱを揺らしていただけだった。

 だけど、何か寒気がするような静けさを感じる気がした。

 

「どしたチュウ」「別れが恋しくなったチー」「楽しい旅だったチャア」

 

「……ち、違う何かヤバい!!」

 

「どうした? そんなに慌てて……だ、大丈夫か?」

 

 突然、異常なまでに震えだしたので少し心配になって来た。

 

 ――――その時。

 

 バサバサバサバサと大量のムクドリが森の上を大急ぎ飛んいるのが見えた。


「――凄い! これがムクドリの群れブン!」


「こんなの故郷でも見たことないくま~~」

 

 荷車を止めてまで眺めている。

 

「……何か様子がおかしくないか? 悲鳴のようなものを上げて騒いでるぞ」

 

 気のせいかとも思ったが、ムクドリの飛び方も明らかにおかしかった。


「あれは逃げているんだ! おい、避難所に戻るぞ!」

 

 ルロウはもの凄く焦っていた。

 

「戻るチュウ?」「どうしてチー」「ムクドリ何で逃げてるチャア」

 

「知るか! とにかくオレの本能が騒いでる! 何かヤバい!」

 

「何か知らないが、言う通りにするか……キケナさん達も急いで――」

 

 

 その時だ。

 

 

 その時、知っていたはずの恐怖が来た。

 

 

『ゴッガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

『『『!!!?』』』

 

 全員が戦慄した。

 この世のものとは思えない凄まじい轟音が辺り一帯の木々に津波のように押し寄せた。

 

「う、嘘だろ」

 

「な、なんチュウ!?」「ラ、ライオン!?」「そ、そんなのと比べられんチャア」

 

「おい! 急いでこいつを牽け!」

 

 慌てる友に従って、すぐに荷車を力いっぱい押して、急いで進ませる。

 

「い、今のは音は?」「びっくりしたくま~~なんなんだ?」

 

「わかるだろ! 来たんだよ災厄が!」

 

『ゴッガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

『『『!!!?』』』

 

 またも轟音の波が押し寄せる。先ほどよりも大きくなっているのがはっきりとわかる。

 音源が近づいてくる。

 

(まさか、これが声か?)

(竜の――――)

 

 そして――

 

 

 ズガガドッダダァ――――ン!!

 

 

 木々をメキメキとへし折り、重音と共に地に振動を走らせるのは巨大な黒。

 落ちて来た。

 いや、降りて来た。

 荷車を牽き、押しているロードらの背後に降りて来た。

 それは紛れもない、噂の中心である悪しき竜。

 

 真っ黒な姿で幸せな世界に恐怖と混乱をもたらしに来た災厄の竜。

 大きな角を2本、尖った歯を並べ、獰猛な知性のない瞳。

 重量感のあるウロコの装甲に身を包んだ巨大な体に、大きなマントのような4枚の翼。

 筋力の発達した手足に鋭い爪と、突起のついた一本の長い尻尾。

 その姿は絵本に出てくる悪い竜とほとんど変わらなず、今この瞬間が夢であるかと錯覚させる。

 

(夢だろ?)

(違うのか)

(現実なのか)

 

 紛れもない現実。

 

(本当にいた)

(幸せな世界を壊す悪い竜は本当にいた)

 

 今、どれほど恐怖に滲んだ顔をしているか想像もつかない。

 

『『『……………………』』』

 

 その場に居る全員の息が止まる。

 世界の時が止まったかのように身体が固まっている。

 まだ遠くに見える真っ黒い怪物。

 

 それでも悪しき竜のギラギラした恐ろしい目にロードたちは映ったことだろう。

 

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