第33話 到着、ミャーガン山
ミャーガン山・避難所。
洞窟内の中央に階段のついた高台がある。そこは避難民の中でも有力者たちが集まる神殿だという。
ロードらは長い階段を登り、神殿へと入っていく。
▼ ▼ ▼
ミャーガン山・神殿内。
入り口にいたゴリラの衛兵に案内されて奥に進む。
神殿内はとても洞窟とは思わせないような草花が生え、左右には回廊を作るように立ち並ぶ柱がある。
ときどき身分の高そうな虎やライオンたちとすれ違う。
とりあえずお辞儀をして挨拶しておく。
そうして連れて来られたのは広間。
「王様お客様ですホ」「お連れしましたホ」
広間の隅へと移動する。
広間の中央に居るのは、冠をかぶり豪勢な装飾品で彩られた一匹のライオン。
(この方がカリフ王)
(生きていたんだ)
「誰だ……見慣れぬ顔だ。我が民とは縁遠いか」
王様に相応しい威厳のあるいい声だった。
「お初にお目にかかります。私は、ストンヒュー王国の宮殿にて使用人をさせていただいている、ロードと申します。急な訪問をお許しください」
「ふむ、よかろう。礼儀を心がけるなら、ささいな無礼は気にすまい」
「あなたがレオリカン王国の、カリフ王でよろしいでしょうか?」
「いかにも、我こそがカリフ」
「本物なのか? 聞いた話じゃあレオリカンの王様は悪い竜の手にかかって命を落としたんだろ」
ルロウが口を挟んできた。
「それは間違いだ。私は本物のカリフ!」
即座に本人に否定された。
「つまり、悪い竜に襲われはしたものの、何とか助かってここまで逃げて来られたという訳ですか」
「……逃げたか、ああ、そのとおりだ……おかげで我らは助かった」
「……辛いことを聞くと思うんですが……どのくらいの方が助かったんでしょうか」
「案ずるな。我が国の民に犠牲はない」
「犠牲が、ない? ほ、本当ですか!」
「我を疑うか?」
「い、いえ」
「皆助かったのチュウ?」「おおそれはよかったチー」「チャア? もしかして被害は0チャア?」
(チーターさんの話は勘違いだったのか……混乱して正確な判断がつかなかったのかもな)
(でも、とにかくよかった)
(ここでの話が終わったらすぐに帰ってレオリカン王国の民たちは無事だったと皆に伝えに行こう……)
「それで、王国から使用人がわざわざここへ何しに参った」
「カリフ王、聞きたいことがあります」
「……申してみろ」
「このミャーガン山には悪い竜は近寄れないと聞きました。そんなことがあるんですか?」
「…………」
カリフ王はさっきよりも顔に厳しさが増した。
「? あの~~」
「何も話す気はない帰るのだ」
「えっ? いやけど……」
「立ち去るのだ!」
「わ、わかりました」
それ以上の会話を拒否するような大声で言われたので従うしかなくなった。
▼ ▼ ▼
ミャーガン山内・街。
大人しく神殿から出てきて街をあてもなく歩いていく。
「やっぱり、噂なんてなかったのか?」
ロードはポツリと呟く。
「いや、あれは明らかに何か隠してただろ」
「そうなのかチュウ」「なんで隠すチー」「ケチだチャア」
「もう一回聞いてみるか」
「無理だろ、明らかに拒絶の意思を見せてたぞ。下手したら次は衛兵かなんか呼ばれるな」
「な、なんで、そんなに話がこじれるんだ? ただ聞いてるだけなのに……」
「オレが知るわけないだろ」
街を適当に歩いているが、確実に出口に向かっていた。
「とんだ無駄足チュウ」「旅の終わりなんてこんなもんだチー」「どうすんチャア? もう国に帰るチャア?」
「そうだな~~、最後にここの秘密を知ってそうな人でも探すか?」
歩きながらいい方法がないか考えていると、雛鳥たちが食事をしようとしている場面を見た。
「え~~」「またモドキムシの実?」「あきた~~」「もやだよ~~」
「皆~~わがまま言ってはいけません。誰も外に出られないので、ここの食事は限られているんです」
大きいカラスが口出ししていた。
「王様は何してんの~~」「衛兵さんだけおいしいの食べてるのずる~~い」「私も~~私も~~」
「はいはい、静かに。衛兵さんたちはいつでも竜と戦えるように力を付けなくてはいけないのです。外に出て食べ物を取ってくるのもあの人達の役目ですから、皆は文句を言わず与えられたものを分けて食べなくてはいけません」
「え~~」「でも、同じ味」「いつになったら竜はいなくなるの?」「もう洞窟の中嫌だ~~」
その光景をロードたちは目にしていた。
(ここも食料不足か)
「世知辛い世の中だ」
ルロウが呟く。
「まだ、食べ盛りチュウ」「モドキムシの実ってあのまずいヤツチー?」「らしいチャア」
モドキムシとは鳥専用の食物で緑の豆のような物だが、とても不味いらしいと聞いたことがある。
(モドキムシか……そうだ!)
いいことを思いついたのでタッタッタッタッと駆け足で雛鳥の元に行く。
「あ、あなたは?」
大きいカラスが訊いてきた。
「失礼、ストンヒュー王国の使者です。モドキムシの実の話が聞こえましたので、一つこの子達にプレゼントしてもいいですか? きっと喜んでくれると思います」
「ストンヒュー王国の? ええ、それは構いませんが……」
「何々~~」「プレゼント?」
「皆、モドキムシに味がないのが嫌なんだろう?」
「うん」「味がない」「モドキムシ嫌い」
「……だったら、モドキムシに味をつけてみよう……ここに丁度魔法の瓶があるんだ」
鞄の中から赤い蜜の入った容器を取り出す。
「魔法の瓶!?」「綺麗な赤色」「はちみつみたい」
「辛蜜っていうんだ。これをモドキムシに少し塗ってみよう」
皿に盛られた豆のような食べ物に少しづつ塗っていく。
「さぁ、食べてごらん」
「うん……」
雛鳥が一羽、試しに一粒食べてくれた。
「!! おいしいくなったよ。これなら食べられる」
二粒、三粒、四粒、五粒、と次々食べていく。
「いいなぁー」「ボクのもやってー」「たべたーい」
「じゃあ、順番に味を変えよう」
こうして雛鳥たち全員のモドキムシの実に辛蜜を塗ってあげる。
「食べれる」「明日もこれがいいなぁ」「うまいうまい」
満足してくれたようだった。
「……あ、ありがとうございました。助かりました」
「お礼を言われるほどのことはしていません。今度からこれ使ってください。差し上げます」
「はい」
(ここで渡すことが宣伝になるだろうか……)
大きいカラスの女性に辛蜜の入った容器を渡してあげる。
「では、オレはこれで失礼します」
用も済んだので皆のところに戻る。
「お兄さんありがとー」「ありがとー」「バイバーイ」
「ああ、じっくり味わって食べるんだぞ」
▼ ▼ ▼
「やぁ、お待たせ。行こうか」
「いい使用人だなお前、さすが気遣いのプロ」
「これがオレたちの育てたロードチュウ」「チーたちの厳しい指導のたまものチー」「オレたちは気遣われたことないチャア」
「オレがお仕えしてるのは王族であってネズミじゃないんだが……」
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