レジェンドオーブ・ロード~オレが異世界最強になればそれだけで異世界平和、最魔の元凶を目指す冒険譚~
丹波新
第1話 子供らしい夢を見る
~~レジェンドオーブ・スライム~~
そこはスライム達の住む幸せな世界でした。
ある日突然、別の世界から悪い竜がやって来ました。
悪い竜はスライム達の幸せな世界を壊し始めました。
力のないスライム達は、泣き叫び、逃げることしかできません。
けれど、一匹のスライムが立ち上がりました。
その勇気が奇跡を起こし、スライムは光の力であるレジェンドオーブを手に入れました。
その時スライムは勇者として悪と戦う者となったのです。
見事、スライムの勇者は悪い竜を倒しました。
こうしてスライム達の世界に幸せが戻ったのです。
それから悪いことをした竜はスライム達に謝りました。
心優しいスライム達は悪い竜を許してあげました。
『どうしてこんな事をしたのか』と竜に聞くと、『別の世界にいる本当の敵に脅されて悪いことをした』言います。
それを知ったスライムの勇者は竜と共に別の世界へ冒険の旅に出ます。
本当の敵を倒して悲しみのない皆が幸せな世界に変えるのです。
たくさんの世界を冒険し、仲間を増やして旅を続けます。
本当の敵を目指して、いくつもの試練を乗り越えます。
そして、竜に乗ったスライムの勇者たちはついにたどり着きます。
それは最後の敵。
戦いの末、スライムの勇者たちは勝利しました。
こうして、全ての世界が幸せに包まれました。
スライムの勇者は伝説となって故郷で末永く幸せに暮らしました。
~~おしまい~~
それは涼しい風が吹く静かな夜のこと。
小さな部屋でランタンの光を頼りに一人の少年が一冊の絵本を読んでいた。
ほどなくして読み終わる。
「ふぅ~~」
腰掛けた椅子に深く身体を預けて一息つく。
読み終えた絵本を机に置き、しばし物語の余韻に浸る。
ロード……それが少年の名前だ。
育ちざかりの12才らしい風貌。
品格漂う金髪が緩やかに逆立っている。
趣味は読書なのだが、ほとんどは今読んでいたような絵本ばかり。
机の上に置かれた絵本のタイトルは『レジェンドオーブ・スライム』であり、子供に向けて描かれた表紙には目を引くものがある。
その物語は主人公であるスライムが竜に乗って、たくさんの異世界を冒険する物語だ。
ロードにとっては一番の愛読書とも言える絵本だ。
物語の世界から帰ってきたロードは、読書後の疲れをほぐす為に首や身体を回し始める。
首を回すついでに時計に目をやると、針が12時に差し掛かる頃だと知った。
「……今日も終わりかぁ」
ボソッと呟く。
すると、部屋の片隅にあった小さな穴から白いネズミが3匹登場した。
そのネズミたちはロードの友達と言えるべき存在。
ハチュ、チッカ、ツアという名前の順番通りに出て来る。
「あっ……おかえり、ハチュ、チッカ、ツア」
そう言ったのは、小さな部屋をネズミたちと共有して使っていたから。
3匹のネズミは挨拶もなしに、すぐさま走り出して机の上まで駆け昇る。
すると真っ先に目に入った絵本を話題に持ちかける。
「まーたその絵本チュウ?」「飽きないチー?」「何回読んでるチャア……」
「えーと……160回くらい」
「無駄な時間チュウ」
「いいじゃないか、面白いんだから」
「この本ぐちゃぐちゃしてて何描いてるか分からないチー」
「たくさんの異世界を渡る話だからなぁ……でも何回も読めばわかるよ」
絵本のページを適当にめくると、水で形作られた森、毒が噴き出す山、風が吹くと音楽になるよう造られた街並み、高い建物が並ぶ摩天楼、などの見たことも聞いたこともない不思議な絵が描かれていた。
「どこが面白いチャア?」
「……全部」
「……絵本の絵しか見てない感想だチュウ」
「ちゃ、ちゃんと読んでるよ…………」
ネズミたちが疑いの目を向けている。
「じゃあ待って、勇者とスライム達がぁ、悪い竜を許してあげるとこがよかった」
「レジェンドオーブでスライムがパワーアップして竜を倒したとこはスカッとしたチー」
「違うよ倒した後だって! 竜は悪いことしてたんだけど、謝ってたし、スライム達も幸せな世界を壊されたのに、許しあげちゃうところだよ」
「それのどこが面白いチャア?」
「えっ? ん~~どう言えばいいかわからないなぁ……」
絵本のスライムの勇者が竜を倒し、その後の悪事を許すシーンを見つめて考える。
けれど答えが出てこなくて話題は変わる。
「はぁ~~オレも竜に乗って別の世界に冒険しに行きたいな~~」
「これは絵本だチュウ竜なんてどこにもいないチュウ」
「わかってるよ……でもキミ達を見てると『竜はいるかも……』ってなるんだけど……」
「チー達が喋れなくなるほどあり得ないチー」
「でも別の世界にならいるかもしれないだろ……? 絵本みたいに竜がこっちの世界にきてくれればなー」
「もし居るとしても、竜なんて来たら世界が壊れるチャア!」
「あ~~~~そうかぁ、それはダメだなぁ、どうしよう……」
コンコンと部屋の扉から音がした。
外から誰かが向こう側からノックをしたとわかる。
「はいどうぞ……」
ガチャリとドアノブが動きギィィィと音を立てて扉が開く。
眼鏡をかけた黒髪の女性が部屋に入る。
その女性はビッシィといい使用人として働いてる人だ。
「……ロードさん勉学に勤しむのも結構ですが、夜更かしはお身体に悪いのでちゃんとお休みにならなくてはなりませんよ。見習いとはいえあなたも使用人なのですからね」
「はいビッシィさん。すぐ寝ます」
「よいお返事です」
「それよりも3匹のネズミさん達、ロードさんのここでの生活のお目付け役と言っても邪魔になっているようではいけません。あなたたちは彼を育てる立場にあるのですから……」
「チュウ」「チー」「チャア」
「それでは……皆さん、おやすみなさいませ」
模範的なお辞儀をした。
「おやすみなさい」「チュウ」「チー」「チャア」
バタンと扉を優しく閉まめてビッシィさんは去っていった。
「……なんか怒られたチュウ」
「そう? ビッシィさんは怒ってないよ」
「チー! ロードは勉強してなかったチー! 絵本読んでたチー!」
「日頃の行いが良いから勘違いするのかなぁ?」
「本当は俺たちに嫌いな野菜食べさせる悪い子なのにチャア」
「嫌いだからじゃないよ。な~んか食べてる姿が微笑ましいから、ついあげちゃうだけで……迷惑だったならやめるよ」
「嬉しいからやめるなチュウ」「チーチー! それならいいチー!」「チーズ! チーズ!」
「わかったから静かにしよ。今度こそ皆でビッシィさんに怒られる……」
「それは嫌チュウ」「寝るチー寝るチー」「そうするチャア」
ネズミたちは机の上にある自分たちの寝床に着いた。
「ロード、明かりを消してチュウ」
言われた本人にはその声は届いかなかった。
絵本を見つめながら別のことを考えていたのだ。
「…………鍛えようかな」
「「「…………?」」」
唐突なロードの呟きにネズミたちは顔を見合わせた。
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