第2話 夢の先へ

「なんの話チュウ?」

 

「さっきの話の続き……絵本みたいにさ……この世界に悪い竜が来たとして暴れられたら困るからさ、それに備えて身体を鍛えてみようかと……」

 

「チー? 将来は王国の衛兵にでもなるチー?」

 

「ん~~そうしようかなぁ……使用人に向いてるような気がしないし」

 

「とりあえず今は好きにすればいいチャア」

 

「……そだね、まだ将来の話はいいか」

 

「よし! さっそく明日から早く起きて走り込みに行こう」

 

 意気込みが握りこぶしを作る。

 

「おぉ~~やる気チュウ! がんばれチュウ!」

「鍛え抜かれたロードの将来が楽しみチー」

「勉強に、使用人の仕事に、強い身体づくりチャア? 最近の子供は忙しいそうチャア」

 

「確かに大変だろうな……けどやってみるよ。この主人公みたいに強くなりたいしさ」

 

 希望に満ちたいい顔つきだと自分でも分かっていた。

 

「親の愛も知らなのに健気だチュウ」「ロードならきっと強くなるチー」「かっこいい大人になるチャア」

 

「うん、期待してて……」

 

 コンコン! と扉からノックの音がして、部屋の住人たちに衝撃を走らせる。

  

『……皆さん』

 

 扉越しに話しかける声に怒りは感じられないが、

 

「あっ……はい! すぐ寝まーす!」「「「チューーー」」」

 

 部屋の住人たちは怒られると勘違いをして、慌てて返事をした。

 扉の向こうから小さな足音がトットットッと遠ざかっていくので、ビッシィさんが去っていくのが伝わった。

 

「……じゃあ消すよ」

 

 

 ランタン手を伸ばし明かり消す準備をする。

 明かりとして使っていたランタンの火はスイッチ一つ切り替えるだけで消えるものだ。

 

「「「 ロード 」」」

 

「ん?」

 

 3匹のネズミが揃ってロードを見つめていた。

 

「いい夢」「見て」「チャア」

 

「うん、おやすみ」

 

「「「おやすみチュー」」」

 

 ランタンの火を消すと部屋は一瞬で暗くなる。

 

 ロードがベッドに入りこむと、すでにネズミたちは〔チューチュー〕と寝息を立て眠りについていた。

 ロードも目を閉じて明日から始める早朝の走り込みに向けて身体を休める。

 瞳を閉じると暗い部屋と、瞼の遮断が二重の黒によって意識を沈められていった。

 ゆっくりと深くだんだんと深い眠りへと誘い込まれる。

 

 暗い部屋の中、時計の2本の針が12を指す頃には、ロードはすでに眠りについてスース―と寝息を立てていた。

 

 こうして長い長い夢に行く。

 これから長い長い夢を見る。

 

 その先は強くなることを目指し続ける日々。

 身体を鍛え、勉学に励み、掃除や家事などをこなし、ときに絵本の世界に浸る。

 ときに苦しく、ときに悲しくも、幸せな日々の夢。

 

 そして子供の頃の長い長い夢から目覚める時が来た。

 絵本に夢中だった12才のロードは、いつしか19才を迎えている。

 

 青年、それが今のロードの姿であり、ここから先に語る彼の姿だ。

 

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