第39話 とても神秘的な空間
ミャーガン山・避難所。
すっかり夜になった洞窟内は篝火に満たされていた。
先頭を行くカリフ王にただ黙ってついて行く。
ゴリラやトラなどのレオリカンの兵士も一緒だ。
だけど、知り合いはここに一人もいない。
周囲ではワニたちの話声や、カンガルーが飛び跳ねて踊り、羊たちが歌を唄う。
「ここはいつからあるんだろう」
「この避難所は昔からある。何かレオリカン王国に異常な事態が起きた時にために、備えの一つとして作らせていたのだ」
カリフ王の答えが聞こえたことで独り言がつい口に出てしまったことを知った。
意外なことに王様は答えてくれた。
「す、すみません」
「構わん……それとロードお前には感謝している」
「えっ?」
突然、感謝されて戸惑う。
「なんでもモドキムシに味を加えて、雛鳥たちに食べさせてくれたそうではないか」
「ああ、たまたまです。ここに来る途中に貰った付け焼刃の味付けでした」
「それでも、礼を言おう。ここにあるのは非常時の食料ばかり、味にこだわるほどの余裕はない。当然、民から不満が出ることもわかってはいたが……」
「そうですね。味に関してならいい話があります。オレに辛蜜を持たせてくれた蜜アメ屋の店主が大量に味蜜の原料を持っていました。さっきもここに避難するためにここに向かっていたので時機に到着するでしょう。彼らと交渉してみては?」
「それは良い話だ。店主はどのような者か聞かせてくれるか?」
「茶色の毛の大きなクマときびきびした小さなスズメバチです」
「そうか。よし聞いたな? その者たちが到着したら迎え入れよと見張りに伝えるのだ」
「承知いたしました」
聞き受けたトラの衛兵が一頭入り口の方に引き返した。
「ロードよ。新しき巡り合わせを呼び込んでくれたことに感謝するぞ」
「はい」
▼ ▼ ▼
ミャーガン山・神殿内
ようやく目的地に着いたようだ。
カリフ王が大きな扉の前で立ち止まった。
「……この向こうに、悪しき竜を払い退ける秘密がある……命が惜しいのならまだ間に合うぞ」
「ここまで来て、試す必要はありません。大丈夫、覚悟は本物です」
「よかろう。では、ついてまいれ」
厳重な重い扉を従者のゴリラたちが協力して開く。
その扉の向こうへカリフ王が入ったので後に続く。
▼ ▼ ▼
【ミャーガン山・神殿最奥】
そこを一言で表すならとても神秘的な空間だった。
とても神殿内とは思わせないような草花が生え、左右には回廊を作るように立ち並ぶ柱がある。
そして、神殿中央に差し込む夜の月光を浴びるライオンの像が一本の赤い剣を咥えて君臨している。
見事に計算されつくした完璧な演出がその光景を作りだしていた。
「神秘的だ」
「そうだろう。何せこの光景を作り出すためにこの神殿は建てられたのだからな」
「この場所が悪しき竜を払うと……?」
「違う。この場所が竜を払うのではない。中央の像にそれはある」
ライオンの像の前に案内される。
「……像の咥える赤い剣を見よ。おそらく悪しき竜のいう剣とはこれのことだ……お前の知りたがっていた竜を払うことの出来る力がこの剣にある」
「赤い剣……本当にこれに竜を払う力が……」
「――ある。だからこそ我らはここに留まれている」
「これこそが、かの悪しき竜をこのミャーガン山に近寄れない様にしているのだ」
「悪しき竜を近づけない……どうしてこの剣にそんな力があるんですか?」
「この剣は竜殺しの剣と言われている」
「竜殺しの剣?」
「そう、この剣をひとたび振りかざせば竜を払い。一突き一撃のもとに竜を倒すことのできる。いわば、この赤い剣は竜の天敵なのだ……」
「まるで絵本のような話ですね」
「そう思うのも無理はない。我らもここに逃げ込んだ時、もはや死を待つものとばかり思っていた。だが、悪しき竜はこの山に踏み込んでくることはなく、レオリカン王国に戻ったのだ」
(この剣があれば竜が近づいてこないのか)
「いったい誰が剣を作ったんです?」
「わからん」
「? 剣があるならそれを作った方もここにいるのでは? 今は本物の竜もいますし、そんな剣があるなら普通は近くにいようと考えると思いますが……」
「無論、私も思う。しかし、いないのだ。いくら探しても、作った者も、これを知る者も」
(いないのか)
(じゃあ王国で同じことは出来ないな~~)
「……一体、いつからこの剣はここに?」
「この剣は9年前に突然出現したと聞く」
「出現? 持ち込まれたではなくて……?」
「……嘘か真か。ここミャーガン山には、かつてある異変が起きた」
「それを調べに来た我々はある不思議な話を、当時の数少ない目撃者たちから聞いた」
「カリフ王……異変とは?」
「それは今から9年前のことだ」
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