第36話 弱くても後ろへ下がるわけにはいかない
息を呑む。
心を落ち着けて腰にさげた護身用の剣に手を伸ばす。
優しく柄に触れ、振り向きざまにシャキン! と鋭く剣を抜く。
目の前の悪しき竜と対峙する。
「……………………」
声を漏らせば即座に命を奪われそうな凶悪な顔だ。
圧倒的な力関係の前に怯えて動くことすらできそうにない。
膝が微かに笑っているのがわかる、
それでも歯を食いしばり、震えが剣に現れない様にしっかりと握る。
(何でここにいる。王子たちはどうなったんだ)
(ダメだ、助からない……)
(終わる)
(怖い)
炎のせいで道が一つしかない。
(でも)
(戦う術は学んでいる)
(このいうときのために、少しだけ特訓していたんだ)
腰にさげていた剣に手を掛ける。
(怖くても立ち向かうしか前がない)
剣を鞘から引き抜いた。
『グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
「――うっ! くぅ!」
竜の咆哮を間近で浴びて身体が思いっきり仰け反った。
しかし、竜は錯乱したかのようにその場で暴れだした。
尻尾や手足を振り回し木々を無造作にへし折る。
「――はぁ!!」
竜の頭が下がった瞬間を狙って剣による攻撃を試みるが、
「うっ――――があぁっ!!」
思いっきり竜の頭突きを受け――数メートル吹っ飛び――背中から木に激突した。
剣も落としてしまった。
「――痛っ!!」
痛がっている暇はない。竜が迫ってくる。
『グオアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
悪しき竜が鋭い爪を持った手を振って来た。
命が潰えたと思いとっさに目をギュッ!! と閉じた。
(…………?)
しかし、とどめは刺されなかった。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
なぜか竜は吠えはじめ、頭を振って木々に地面に打ちつけている。
(……なんだ?)
しかし、獰猛な瞳と目が合うと口を大きく開き鋭い牙が迫りくる。
「――――っ!!」
間一髪、竜の突撃を横に飛び込んで回避し、ついでに落とした剣も拾う。
木々に飛び込んだ竜は噛み砕きながら、体勢を立て直し、再び鋭い牙を向ける。
恐怖から来る焦りが無理に後ろへさがらせようとして尻餅をついてしまった。
口を開けた竜が飛び込んできた。
今度こそ命は尽きたと思った。
ガギン!! と竜の歯と歯が重なる音がした。
しかし、今一歩のところで僕には届かなかった。
「はぁ……はぁ……」
『グオオオオオオオオオオ!!』
またも悪しき竜は頭を激しく揺さぶる。
まるで何かを振るい払うかのように。
2度も死線を潜り抜けたら、さすがに疑問が浮かぶ。
「な、なにがしたいんだ……」
剣を構え攻撃態勢に入った時だった。
「――剣、剣を、持て……」
重く低い声が聞こえてきた。
「?」
その歯切れの悪い声は確かに竜から聞こえてきた。
「……今……しゃべったか?」
「た、倒しに、グオオオオオオ!」
竜が言葉を発していた。
「言葉が通じるのか?」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
竜は咆哮するだけで、辺りの炎が吹き散らされていく。
「お前はなんだ! なぜこんなことをする! どこから来た! どうしてレオリカン王国を襲った!」
「ヌウウウウウウ!!」
また頭を木々に打ち付けて、おかしな行動を始めた。
「答えろ! 悪しき竜!」
『ゴアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
凄まじい咆哮が、辺りの炎を辛うじて消していた。
「剣だ! 国を返して欲しければぁ倒しに来るがいい!!」
(? なんでオレに言う……?)
「剣だ!!」
(剣?)
何が言いたいかわからないが、竜の腹部辺りにそんなものが見えたような気がした。
そのとき、
『『『おおおおおおおおおおおおお!!』』』
どこからともなく大勢の衛兵たちが馬に乗って現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます