第43話 動物たちの戦い方

 レオリカン王国。

 

 

『グオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 レオリカン王国の谷に踏み入った瞬間、悍ましい咆哮が津波となって押し寄せる。

 悪しき竜は攻め込む者たちに気づいたようだった。

 おそらく自分の命を奪い去るおぞましい赤い剣の接近にも。

 響く咆哮に恐怖と絶望の表情を浮かべながらもレオリカン兵団は足を止めることなく前に進んで行っている。

 レオリカン兵団にとってこの地は自分たちのずっと暮らしてきた場所。

 そのため道に迷う事もなく、国の坂を上がり橋を渡り上へ上へと駆け上がる。

 

「来ますキー!!」

 

 先行して大空を行くタカの衛兵が叫ぶ。

 山のような尾根の向こう側から真っ黒な腕が出現し、次に真っ黒な巨体が乗りあがる。

 悪しき竜がレオリカン王国の奥から現れた。

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 この世の終わりを告げるような咆哮が空に響き、滞空しているタカたちを散らす。

 

「放て!!」

 

 ダチョウに乗って弓を構える人たちが様々な位置から悪しき竜に向けて矢を放つ。

 カッカッカッカッカッカッ! と矢が竜の鱗に弾かれたり、翼を射抜いたりする。

 近場で矢を放ったダチョウに乗る人たちに竜が襲い掛かる。

 

「――退避!!」

 

 声より前に動いたダチョウたちが洞窟内に避難して竜の攻撃をやり過ごした。

 その間に恐らく、次に矢を放つ準備や洞窟内を移動して別の出口へ向かっているのだろう。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 竜は逃げたレオリカンの兵士たちに執着せず別の矢を放つダチョウと人の部隊に襲い掛かる。

 しかし、こちらの部隊もまた、洞窟内に逃げ込んで竜をやり過ごす。

 

『ボモオオオオオオオオオ!!』

 

 次は丸太を背負ったバッファローが地に足をついた竜に向かって一斉に突撃する。

 突撃して竜の足に、飛び込んで竜の身体に打ち付ける。そして即座にその場から離脱する。

 逃がすまいと竜は身体の熱を口から灼熱の炎に変えて吐きだす。

 しかし、バッファローの洞窟内への退避が間に合い炎による被害はなかった。

 

「おー!タカたちが足に装着したかぎ爪で攻撃してるチュウ!」「チー! ゴリラが岩を投げてるチー! いいぞチー」「鉄の装甲を纏ったアルマジロも凄い利きそうチャア」

 

 その戦いの様を移動しながら眺めている。


「で、まずはどうすんだ! ロード!」


 ルロウが尋ねてくる。

 

「最初は竜の体力を減らすからレオリカンの衛兵たちに任せるんだ! 疲れが見えてきたらオレたちの出番! 一撃必殺の竜殺しの剣で竜を突き刺して倒す!」

 

「それまで、逃げ回ればいいんだな!」

 

「そうだ!」

 

 王国に入って早速竜に出会ってしまったので離れなくてはならない。

 

「この剣で本当に竜を倒せるチュウ!」

 

「きっと倒せるさ。竜が敵視してるんだからな」

 

「ドキドキチー、怖くないチー?」

 

「怖いし緊張してる。でもやるんだ」

 

「ロード! ここで世界を戻してチャア!」

 

「ああ、オレも悪い竜がいない幸せな世界がいいからな」

 

 その時、家や岩が目の前に振ってきて道を阻んだ。

 

「――くっ! 通れない! おい道を変えるぞ!」

 

 何が起きたのか辺りを見渡してみると、

 どうやら暴れる竜が投げ飛ばしている物のようだった。

 ところかまわず岩や家を飛ばしているのは、間接的な被害でも狙っているのかもしれない。

 

「あ、危ないな! オレたちも洞窟の中に移動しよう!!」

 

 ルロウに乗ったまま近くの洞窟に入る。

 暗がりでも、洞窟内はアカリダケというキノコが生えているので、それを頼りすれば走れないことはないようだ。

 谷の内部は分かれ道がいくつもあり、迷路のようになっているという話を聞いていた。

 

「この先は今崩れた引き換えせ!!」

 

 竜の攻撃から逃げてきたダチョウと人の兵士たちが前方から来て言ったので引き返す。

 

「洞窟を移動すんのはやめた方がいいな。何か起きたら逃げようがない」

 

「出口は分かるのか? ルロウ」

 

「なんとなく外の空気の匂いの流れで」

 

 坂を登っているような曲り道をひたすら進んで行くと光り差す出口が見えてきた。

 そこから外へ出ると、谷のかなり高い所に到達したのが景色からわかる。

 

「竜は――!?」

 

「チュウ!」「あ、あそこチー!」「真っ黒な背中チャア」

 

 街の方で竜がまだ暴れている。

 

「ルロウもう少し近くに行ってくれ」

 

「近づくのは危険だ。昨日のこと覚えてるだろ。すぐに追いつかれたり、飛んで炎を吐いてきたり、危うく命を落としかけた。こんなに距離が離れてても安心できないくらいだ」

 

 一先ず距離は離れることが出来たから、そこから様子を見守ることになった。

 

(これが戦いか……)

 

 戦っている兵士たちを見ていると今にも命を落とさないかどうかとヒヤヒヤしてしまう。

 

(ただ見るだけ……)

(この時間が一番苦しいかもしれない……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る