第27話 気分はまさに冒険の旅
カゴラ村から出たロードら一行は人の背丈ほど長い草の道を行く。
背丈ほどある草原。
ロードら、ハチュ、チッカ、ツアはルロウに乗って悪い竜が近づけなかったという山を目指していた。
「竜も寄り付かない、ミャーガン山か」
「明日にはついてやる」
ロードたちはルロウの背中に乗って向かっている。
「は、早いのはいいチュウ」「揺れ、揺れ、揺れ揺れチー」「乗り心地は最悪チャア」
「知るか」
「お前たちはついてこなくてよかったのに、もうオレのお目付け役は終わっただろ……?」
「終わったチュウ、でも……」「ほっとけないチー」「やっぱ、まだまだ幼いチャア」
「はぁ、もう19才なんだぞ。まったくいつまでも子ども扱いして~~~~」
「ふん、仲のいい奴らだ」
「そいえばルロウ、もう怪我は完治したみたいだな」
「ああ、お前の噂の力とやらのおかげでな~~、、、なぁ神様さん」
「そんな力はない」
「ふん、まぁいいが……いつもあんな事してんのか」
「あんな事……?」
「オレを助けたり、村や街に支援活動したりだよ」
「別に聞くことじゃない、当たり前のことだろ……」
「…………」
「どしたチュウ」
「いや、こいつちょっと変わってないか……?」
「どのへんがチー?」
「オレが怪我してた時もそうだったが、他人を自分の事のように気遣うんだな」
「当たり前のことチャア」
「そうか? いや、そりゃあ目の前に怪我したやつがいたら心配はするが……何ができるよ」
「どういう意味チュウ?」
「オレが怪我したとき周りの奴らは心配してた……けど、ロードみたいに何かしようとはしなかった」
「できなかっただけチー」「怪我の手当は皆、不慣れなんだチャア」
「それはわかってる」
「こいつに助けられてからは、同じ状況に立ったらオレも何とかしてみようとは思ったが……」
「もしかして、それで竜の被害にあった村や街に行ってたのか? 怪我をしてる人を助けようと」
「ああ、だが怪我人はいなかったけどな……」
「でも、偉いじゃないか。やろうとしたんだろ?」
「けど、カゴラ村にはお前が治療してた怪我人がいただろ? オレは見つけても結局何もできなかった。当然だ。どう手当てすりゃいいのかわからねーんだからさ」
「なるほど、やる気はあっても知識がないなら出来ないチュウ」「確かにそうチー」「そいえば、ロードは小さい頃から怪我の勉強をしてたチャア」
「やっぱりな、だから変わってんだな……」
「変わってるかぁ? 普通に皆が思いつくことのような気がする」
「育ちがいいんだよ。オレなんか好き勝手、旅なんぞしてたおかげでこんなに汚れちっまった」
確かに宮殿で暮らしている動物と違ってルロウの毛並みはいいモノとは言えない手触りだった。
「……旅かぁ~~、なぁ今までどんなところを旅して来たんだ?」
「ん? 別に面白い話なんかないぞ」
「でも、色んなところに行ったんだろ? オレは年中、宮殿で暮らしてて、外に何があるのか知らないんだ。実はレオリカン王国にも行ったことがない……」
「そりゃつまんないだろうな~~言っちゃあなんだが、オレの見た限り、お前らの国は何もなさそうだったし……」
「はぁ、世界にはもっと色んなことがあるんだろうなぁ」
「子供の頃から言ってるチュウ」「まだ、冒険に憧れてるチー?」「でも、今は宮殿で働く使用人チャア。現実は残酷チャア」
「そうか、冒険に出たいのか……」
「ルロウは何で冒険に出たんだ?」
「何でだったかなぁ……まぁ故郷の連中とはそりが合わなくて一人になりたかったんだろ」
「一人かぁ、いいなぁ、なんか憧れる。オレも冒険したい」
「チュウ! 今! 冒険してるチュウ!」
「そうか! そうだな!」
「でも、周りは草しかなくてつまらんチー」
「いや、こうやってルロウに乗って風を感じるだけでも凄い解放感だ!」
「よかったチャア、ロードの夢が叶ったチャア」
「ああ! オレは今、世界を冒険をしているんだ」
「やめろやめろ。なんか
「それで、ルロウはどんなところに行って来たんだ?」
「今はやめとこう。飯時になったら話してやるから待ってな」
「……わかった。楽しみにしてる」
「――少し飛ばすぞ」
風を切るようにビュンと走る速度を上げて一気に長い草むらの道を抜けた。
◆ ◆ ◆ ◆
道中の林。
時刻は午後17時過ぎを回り、辺りがオレンジ色の夕焼けに染まる。
林の中をルロウに乗って進んでいると誰も使ってない小屋を見つける。
皆の家と呼ばれる無人の休憩施設で誰でも自由に使用することが出来るらしい。
旅をする人たちのために作られたこの小屋はある程度の物が揃っている。
薪に寝具やランタンに調理器具まで、おまけに近くに湖や食用の実のなる木があるので設置者の心遣いが見て取れる。
暗黙の了解のためか、こういうところに住み続けるという人や動物はいないらしい。
ルロウを含めて旅をする者たちは皆こうしたマナーを守っていると本人から聞いた。
こうして皆の家で一晩を過ごすことになって、手持ちに材料はあったけどせっかくなので近くにある木の実を夕食の材料にすることにした。
ガブ! グシャグシャ、ルロウが木の実に噛み付いて食べる。
「おう、こいつはいいもんだ」
「これ、このまま食べられるのか?」
同じものを枝の部分を折って持ち、食べようとして口に運ぶと、
「あっ! コラ! それはコケキンの実だぞ! 人が生で食えるわけないだろ!」
「えっ? これがコケキンの実なのか? オレの知ってるのと違う。オレが知ってるコケキンの実はもっと大きいし年に一度のお祭りでしか食べられない唐コケキンなんだが……」
コケキンの実とは、木にできる食用植物の一種で特徴なのが枝に刺さったように実が生っている。※枝は食べものではない。
肉質な食感と柔らかさが評判で、人は熱を通さなくては食べることが出来ない。
ロードの知っているコケキンの実は椅子に丸々乗るほど大きいが、手に持っているコケキンの実は握れば隠れてしまうくらいの小さなものだ。
「さすが宮殿の暮らしの使用人だな。それは高級コケキンだろ。普通はこんなもんなんだよ」
また一つルロウはコケキンの実を食べる。
「そうなのか~~全然知らなかった」
「あったチュウあったチュウ」「うぅ重いチー」「潰してソースにするチャア」
ネズミたちが持って来た米粒くらいの小さな木の実は〈ウイスの実〉。
まとめて潰すことで調味料になる。とても濃いので使いすぎてはいけない。
「ありがとう」
「食材はこんなもんでいいだろう」
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