真相はどこに
水中ドローン停止
湖上では釣り客がボートの底に隠れていた。その周囲には盛り上がった波がいくつも動いていた。それは水中ドローンに違いなかった。湖に浮かぶ船に乗る者を襲いに来たのであった。
(少しでも顔を上げれば矢のような弾が飛んでくる!)
その釣り客は恐怖に震えながら助けを待っていた。しかし警察のボートは現れず、さっきまで爆音を響かせていたヘリコプターもどこかに行ってしまった。見捨てられたとしか思えない状況なのだ。
(死にたくない! 死にたくない! 神様! 助けて!)
彼はじっと目を閉じて神に祈っていた。もうそれしかできないのだ。辺りは暗闇に閉ざされていて何も見えない。ただボートの揺れる様子から周囲にあの恐ろしい波が動き回っている気配を感じることができるのだ。
しばらくしてその波の揺れがやんだ。そしてそのうちに辺りが少し明るくなったように感じた。
(何かあったのか・・・)
釣り客は少しずつ頭を上げた。すると前方にサーチライトのような明かりが見えた。そして、
「誰か、いないか!」
そんな声まで聞こえてきた。捜索に来た警察の船のようだった。釣り客はボートの上に立ち上がって大きさ声で叫んだ。
「ここにいる! 助けてくれ!」
するとライトが彼の方に向いた。
「すぐにそっちに行く! 待っていてください!」
救助のボートが近づいてきた。その釣り客はようやく救われたのだ。
「こちらに移ってください。ボートを牽引して湖国で保護します。もう大丈夫です。」
ボートに乗っていた警官が優しく釣り客の移乗を手伝った。彼は安心のあまり、そこで腰が抜けてしまって座り込んでしまった。
こうして湖に残された人たちは湖上署の署員によって湖国にすべて保護された。
◇
第53ひえい丸の船体は水中ドローンの攻撃を受けてズタズタの状態だった。だが沈まないでいたのは城山船長をはじめとする乗組員の力が大きかった。彼らは攻撃を受けて揺れる船の中で浸水場所を塞ぎ、ポンプ排水を続けたのだ。
中野警部補や警官たちも奮闘した。寄せてくる水中ドローンをショットガンやライフル銃で撃退していった。頑丈に作られた水中ドローンでも何発もそれらの弾を受けて湖の底に沈んでいった。だがそれでも水中ドローンの数は多い。それらはプログラムされた通りに襲い続けていた。
「もう弾がありません!」
ライフルを持つ警官たちから声が上がった。中野警部補のショットガンの弾もあと2発のみ・・・これがなくなれば後は拳銃しかない。だがこれでは水中ドローンに致命傷を負わすことはできない。
中野警部補は残りの2発の弾を込めた。水中ドローンは相変わらず、数に頼んで体当たり攻撃を仕掛けてくる。
「バン! バン!」
それは見事に水中ドローンを破壊して、一つの波が沈んでいった。だがまだ多くの波が体当たりをかけようとしていた。
「もはやここまでか・・・」
中野警部補はショットガンを捨てて、左わきのホルスターから拳銃を抜いた。彼女の拳銃は44口径の回転式リボルバーだ。それをぶっ放そうと波の一つに狙いをつけた。
すると襲ってくる波が沈んでいった。まるで何事もなかったかのように静かになった。
「何? 何があったの?」
中野警部補は周囲を見渡した。だが辺りは暗闇のみ。ただ静かに波打つ湖面が広がるだけだった。
「中野警部補! 湖国から連絡です!」
藤井巡査長の声が聞こえてきた。それは明るいものだった。
「なんといってきたの?」
「水中ドローンの活動を止めたとのことです!」
「今度こそ本当なの?」
水中ドローンの活動停止の連絡は前に来ていた。確かに一時はその動きは止まったが、また襲ってきたのだ。すぐにその連絡を真に受けることはできなかった。
「今度こそ本当のようです。大橋署長が呼んでおられます」
それを聞いて中野警部補はブリッジに向かった。もちろん警官たちにはその場に待機させていた。
ブリッジには城山船長と原子力研究調査機関の黒丸氏もいた。2人はすでに大橋署長と話したようだった。中野警部補は彼らに一礼して無線機のマイクを取った。
「中野です」
「ご苦労だった。こんどこそ事態は収束した。もう水中ドローンに襲われる心配はない。そこで待機してくれ」
「わかりました」
「これから湖国でそちらに向かう。城山船長の話では沈没は免れているが危ない状態のようだ。機関ももちろん動いていない。湖国で牽引して今津港に向かう予定だ」
そこに黒丸氏が横から口を出した。
「大津港に向かっていただきたい。大橋署長! これは政府機関の要請です」
「黒丸さん。先ほども申しました通り、それはできません」
「しかし原子力研究反対派の妨害を受けます。あなたのしようとすることは国益を損する行為です。断固講義いたします!」
「抗議でもなんでもしてください。しかし琵琶湖の交通の安全に関しては湖上署に全権をゆだねられています。いくらあなたでも、いや政府機関であろうと覆すことはできません」
「しかし・・・」
「我々の行動を妨害するならすぐにでも公務執行妨害で逮捕します」
大橋署長ははっきりと言った。それを聞いてさすがの黒丸氏もおとなしくなった。
「では中野警部補。ご苦労だがもう少しそこで頑張っていてくれ!」
「はい!」
無線連絡を追えて中野警部補はマイクを置いた。窓の外にはキラキラ光る星が見えていた。ようやく霧が晴れており、暗闇にほのかな光が届くようになっていたのだ。
「今日も琵琶湖から見える星はきれいね」
中野警部補の張りつめていた緊張は少しずつ解けてきていた。
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