過去の因縁
湖国故障
湖国は順調に航行していた。だが急にガクンと船にブレーキがかかったように揺れて、ブリッジの電源が落ちた。急に室内が暗くなり、すぐに非常灯が点いた。
「停電か? 非常電源!」
大橋署長が指示すると、非常電源に切り替わってブリッジに明かりが点いた。だが多くの装置はダウンしたままだった。
「どうしたんだ? 故障個所は?」
「機関が止まっています。舵も動きません。投錨もできません」
大変なことが起こっていた。湖国はいきなり機関が止まり、電源が落ち、舵は動かず錨も下ろせなかった。船はただ漂流するだけになった。
「原因を特定して復旧させるんだ! 機関室にも伝えるんだ!」
大橋署長は航行課の署員に命じた。だが船は深刻な状態に陥ったようで、すぐに解決できそうになかった。
「やはりさっきの水中ドローンの体当たりの衝撃でおかしくなったのか?」
大橋署長はそばにいた宮本副長に聞いた。彼も海上保安庁出身であり、主に機関長として職務に服していた。「うみのこ」からの改装の実務責任者でもあり、この湖国のことを一番知っていた。
「それはわかりません。機関室を見てきます」
宮本副長はそう言ってブリッジを出て行った。後は彼の腕を信じるしかない・・・。そうなると琵琶湖の状況が気になった。
(水中ドローンの捜査はどうなったのか?)
大橋署長は席を立つとブリッジを出た。そしてその足で捜査課に行った。捜査状況が気になっていたのだ。湖にいる人の救助は警護課に任せたので、捜査課には荒木警部をはじめ皆、そろっていた。
「ご苦労だった。何かわかったかね?」
「ええ、捜査1課が水中ドローン盗難の捜査をしていました。同一犯と思われます。容疑者を絞り込んでいると聞いています」
荒木警部が答えた。
「そうか。それならよかった。だが困ったことが起こった」
「湖国に故障が起こったのですか?」
「そうだ。湖国の機関が止まった。電源も落ちた。原因はまだわかっていない。こんな時にだ」
大橋署長はため息をついた。いくら「うみのこ」を大改装したからと言って老朽船には違いない。故障は出てもおかしくないだろう。だが佐川刑事は疑問に思っていた。あの優秀な機関士である宮本副長が徹底的に改修したはずだ。今まで不具合はなかった。それがこんな非常事態に・・・。
「署長。これは犯人が仕掛けていたとは考えられませんか?」
「まさか! ここまで手が及ばないだろう。水中ドローンの体当たり攻撃の衝撃でどこかおかしくなったと思うのだが・・・」
とにかく今は警護課が湖上にいる人たちの救助をするだけだった。今までの報告では順調と聞かされていたが・・・。
「ま、そういうことだ。湖国も止まって何もできないから後は捜査1課の捜査状況を見守るしかない」
大橋署長はそこで机の上の資料に目がいった。それに気づいて佐川刑事が説明した。
「これはRキット社がサバイバルゲームの道具を送った参加者の名簿です」
「そうか・・・」
大橋署長は何気なくさっとめくって見ていたが、そのうちその顔が真剣になってじっと資料を見つめていた。
「署長。どうしたんです?」
「この人たちを知っている・・・」
「何ですって!」
佐川は驚きの声を上げた。荒木警部も身を乗り出した。
「署長。一体この人たちにどんなつながりがあるのです?」
「それは・・・まさか・・・」
大橋署長は信じられないという風に首を振っていた。
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