動き出した水中ドローン
「署長。荒木警部からです。また水中ドローンが動き出したようです。各部署に至急の連絡を要請しています!」
「何! 動き出しただと!」
ブリッジで報告を受けた大橋署長が驚いて立ち上がった。
「第53ひえい丸、モーターボート、ヘリに連絡! 『水中ドローンが再び活動を始めた。注意せよ』と!急げ!」
大橋署長がそう指示すると、無線係の署員がそれぞれに通信を送った。
「湖国より各署員へ。水中ドローンが再び活動を始めた。注意せよ。繰り返す。水中ドローンが再び活動を始めた。注意せよ・・・」
それを聞きながら大橋署長はまた椅子にどっかり座った。湖国の機能が戻った以上、この船も向かわねばならない。
「錨上げ! 全速前進! すぐに第53ひえい丸の救助に向かう!」
湖国は動き始めた。琵琶湖の危機を救うために・・・。
◇
第53ひえい丸は水中ドローンの活動停止の報を受けて、見張りを除いて警官たちは船内で休憩をとっていた。誰もが事件はすでに終わり、後は帰還命令を待つだけだと思っていた。もうすでに緊張感は解け、気持ちは緩んでいた。
そこに湖国から通信が入った。(水中ドローンがまた動き出した)と。時刻はもうすぐ20時になる。水中ドローンが襲ってくるのは確かだった。
「各自、持ち場に戻ってください! 次は必ず水中ドローンが襲ってきます!」
中野警部補がすぐに指示を出した。警官たちはすぐにライフルをもってデッキに出た。外は暗闇に覆いつくされて不気味なほど静かだった。探照灯で湖面を照らすとキラキラと輝いた。だがそれは金属の反射の光も含まれていた。気づかないうちに水中ドローンに囲まれているのだ。
「中野警部補! 周囲に水中ドローン多数! どうしますか?」
警官が聞いてきた。こちらから手を出さねば襲って来ないかも・・・淡い期待はあった。だが答えを返す間に20時を回ってしまった。すると水中ドローンは一斉に水中銃を発射し始めた。それは透明シールドで防げている。
「よく狙って! 撃て!」
中野警部補が発砲を許可した。すると警官たちがライフル銃を発砲し始めた。
「バーン!」「バーン!」「バーン!」
湖に轟音が響き渡った。デッキに硝煙の臭いが充満する。ライフル銃の弾は水中ドローンをとらえているも敵はなかなかタフだった。動きを止めて沈んだものは少しだけ。後は波を盛りあげて突っ込んできた。警官たちはライフル銃を撃ち続けているがその足を止めることはできない。
「体当たりに来るわ! 衝撃に備えて!」
中野警部補が叫んだ。すると「ドーン」と大きな音がして船体が大きく震えた。それでデッキにいた警官たちはデッキに転がった。もちろん中野警部補もしりもちをついた。だが彼女はすぐに起き上がって指示した。
「水中ドローンはまた来るわ! 準備ができたらそれぞれ狙撃してください!」
警官たちもすぐにライフルを構えた。
(このままでは沈められてしまう! 何とかしなければ・・・)
中野警部補も肩のショットガンを降ろして弾を込めた。
◇
ヘリにも水中ドローンが停止した報告は行っていた。だがそれで救助の仕事が終わったわけではない。水中ドローンが停止した今だからこそ、湖上にいる人たちを救助しなければならないのだ。
夜の湖は明かりもなく漆黒の暗闇が支配している。それはそこにいる人たちを不安にさせて途方に暮れさせた。普通のボートで湖に出た人たちはこの闇の中、自力で岸の戻ることは難しいのだ。
ヘリは湖面を照明で照らし、次々に残された人たちをヘリに収容していった。だが順調だったのはしばらくの間だけだった。彼らにも湖国から悪い知らせが入った。
「水中ドローンが再び活動を始めた。注意せよ!」
ヘリに乗る堀野刑事はそれを聞いて愕然とした。このままのペースでいけばもう2時間ほどで救助は完了する。だが水中ドローンが活動を始めればそのペースは落ちる。いや救助できる人が水中ドローンの餌食になってしまうのだ。
「どうします?」
ヘリのパイロットが聞いてきた。堀野刑事はこのまま捜索を続けたかった。しかしヘリとはいえ、水中ドローンが放つ水中銃は危険である。最悪の場合、このヘリに乗る者すべて、救助した人たちまでに危険が及ぶ。それに燃料は十分ではなくなっている。
「撤収する。だが・・・」
ヘリはすでに救助を待つボートの上空に来ていた。下では大きく手を振っている釣り客がいた。
「あの人だけは救助しよう。水中ドローンが出て気ないか見張っていてくれ! さあ、いくぞ!」
堀野刑事の指示で救助が始まった。ホイストで救難隊員が下りていく。
「もう少しだ。」
堀野刑事はじりじりしながら見ていた。下では救難隊員が釣り客をロープで固定した。後は引き上げるだけである。その時だった。
「11時方向、盛り上がった波が見えます。水中ドローンです。接近してきています!」
パイロットが伝えてきた。
「もう少しです。待ってください!」
堀野刑事はそう返事を返した。
(早く引き上げてくれ! 水中ドローンが来る前に・・・)
彼は祈るような気持だった。キャビンでは窓の外を見ていた救助した人たちが騒ぎ出していた。
「盛り上がった波が来た!」
「怪物だ! 早く逃げてくれ!」
「やられるぞ!」
その声は大きくなっていった。それに対して堀野刑事はキャビンの方に向き直り、彼らを見渡しながら大声で言った。
「お静かに! 救助が終わればすぐにここを離れます! だから我々を信じて待ってください!」
その迫力にキャビンの人たちは静かになった。堀野はまたホイストの先を見た。闇の中から救難隊員と釣り客の2人が吊り上げられていく。水中ドローンはもう近くまで来ていた。このままでは2人とも撃たれてしまう・・・・。
「くそっ!」
堀野刑事は拳銃を抜くとその波に向かって発砲した。拳銃弾ぐらいでびくともしないのはわかっていたが、彼はそうでもしなければいられなかった。
「バーン! バーン! バーン!・・・」
弾をすべて打ち尽くすまで撃ち続けた。すると水中ドローンは堀野刑事を狙ってきた。上に向けて水中銃を撃ってきたのだ。
「うわっ!」
堀野刑事は慌ててのけぞった。矢のような弾はヘリの外板に当たって跳ね返った。それから続いて何発も飛んできたが、ヘリを傷つけることもなかった。そして時間も稼げた。釣り客を救難隊員ごと、引き上げることができたのだ。
「完了! ゴー!」
堀野刑事が叫んだ。するとパイロットはスロットを開いてヘリを急上昇させた。水中ドローンが撃ってきたが、もう届く範囲ではなかった。
(何とか救助できたか・・・)
堀野刑事は額の汗を拭いた。まだ湖に残された人はいるが、これ以上は無理だと判断した。ヘリは日野のヘリポートに帰還していった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます