湖上のバトル
決死の救出
荒木警部は捜査課に戻った。これから捜査課の人員でモーターボートに乗って琵琶湖にいる人たちを救助しようというのだ。だがまたあの怪物に襲われる可能性がある。
捜査課には佐川刑事と飯塚刑事、そして岡本刑事と藤木刑事がいた。梅原刑事は艇庫で水中ドローンを調べていてここにはいない。荒木警部が深刻な顔をして部屋に入って来たのを見て、4人は(何か重大なことがある。)と感じて彼の前に並んだ。
荒木警部はそれぞれの顔を見渡した。彼は危険を承知で彼らに命じるしかなかった。
「警備艇は7艇ともあの水中ドローンによって撤退を余儀なくされた。こうなったら我々が湖にいる人たちを救助するしかない」
荒木警部の言葉を4人は真剣な顔で聞いていた。
「モーターボートに分乗して湖に出て救出する」
そう命じた後で荒木警部はこう言葉を継ぎ足した。
「だがあの怪物に襲われる可能性がある。命の保証はない。気が進まない者はこの任務を辞退しても構わない。遠慮なく言ってほしい。」
だが彼らの決心は固まっていた。
「行かせてください! 我々なら大丈夫です」
佐川刑事がこう答えると、他の3人も大きくうなずいた。
「よく言ってくれた。それならば頼むぞ! 佐川と岡本、佐川と藤木、2組に分かれてモーターボートで救出に向かう! 真森はここに残って情報を伝えてくれ。」
「はい!」
彼らはすぐに出発しようとした。その時、飯塚刑事に考えが浮かんだ。
「そうだ! あの怪物につけ狙われない方法があります。」
「それはなんだ?」
「あのタブレットです。青い点の反応のままなら襲われないはずです。」
確かにそうだ・・・荒木警部も思った。それに青い点を示すタブレットは2台ある。
「よし、わかった。持っていこう。」
こうして荒木警部たちは湖国を出発した。
◇
2艇のモーターボートは出発していった。 荒木警部と岡本刑事のモーターボートは北東の湖西沖へ、佐川刑事と藤木刑事のモーターボートは東の近江八幡沖に向かった。霧はなぜか、なかなか晴れない。遠くまで見渡せない状況で湖上に残された人を探さねばならない。
荒木警部と岡本刑事を乗せたモーターボートはしばらくして2人組の釣り客を見つけた。
「湖上警察署です。ここは危険です。湖国であなたを保護します」
荒木警部が言うと、釣り客はびっくりしていた。
「危険って? 何が起こったのですか?」
「水中ドローンが水中銃で狙っています。こちらに移ってください」
それを聞いて釣り客はすぐにモーターボートに乗り移った。
「身を伏せてください。このまま湖国に向かいます」
岡本刑事はすぐにモーターボートを走らせた。幸いにも水中ドローンは現れない。こうして2人の釣り客を乗せて湖国に戻った。ただモーターボートに乗せられる人員には限りがある。何度も出て行かねばならない。
一方、佐川と藤木刑事はかなり進んだところでゴムボートに行き当たった。サバイバルゲームの真っ最中だが、赤色灯の回る警察のモーターボートを見て逃げようとした。
「湖上警察だ。止まりなさい。ここは危険だ!」
モーターボートはスピードを上げてそのゴムボートの鼻先を押さえた。
「何も悪いことはしてねえ。どけよ!」
「水中ドローンが湖にいる人を狙っているんだ。湖国で保護するからこちらに移るんだ」
藤木刑事が言った。だがゴムボートに乗った男は従おうとしない。
「俺は今忙しいんだ。賞金が稼げるんだ!」
「しかしここにいると危ない」
「そんなことはねえよ。撃たれて退場にならない限り、俺は安全だ。このタブレットを持っている限りな」
男はそんなことまで知っていた。周囲には騒ぎを聞いて釣り客のボートが遠巻きにしていた。
「それなら嫌でも一緒に来てもらう」
「任意だろ? そんなことに従わねえぜ」
男はゴムボートの向きを変えて走り出した。佐川刑事は後を追おうしたが、周りにいた釣り客から声をかけられた。
「さっきの話は本当なんですか?」
「はい。皆さんを湖上署で保護するつもりです。モーターボートのスピードなら水中ドローンから逃げきれます」
「本当か? それなら連れて行ってくれよ!」
釣り客がそばに寄ってきた。しかしモーターボートに乗れる人数には限りがある。無理して4人・・・というところだった。佐川は仕方なく、乗せる釣り客を選ばねばならなかった。
「あなたとあなた。そしてあなたとあなた。4人だけ先に乗ってください。後の方はまた後で迎えに来ます」
そんなことを言っても他の釣り客は納得できなかった。
「俺を先に連れて行ってくれ!」
「俺が先だ!」
「頼む! 私を先にしてくれ!」
モーターボートを釣り客のボートが取り囲んだ。
「皆さん、落ち着いてください。待っていてくだされば戻ってきます。我々を信じて待っていてください!」
藤木刑事が声を上げた。だが騒ぎは収まる気配はない。さらに釣り客が詰め寄ってくる。
「どいてください! 危険です!」
佐川刑事はモーターボートを走らせた。それで何とか、釣り客のボートから抜け出せた。その後ろから残された釣り客の罵声が聞こえる。
「俺たちを見捨てるのか! 馬鹿野郎!」
「それでも警察か! 俺を守れよ!」
「ポリのくそ野郎!」
それを聞いて藤木刑事は怒りがこみあげてきた。命がけで救助に来たというのに・・・。
「無茶苦茶ですね。なんて自分勝手な連中だ!」
だが佐川刑事はため息をついた。
「いや、みな命がかかっているんだ。そうなるのは当然だろう。」
「しかし・・・」
「必死なんだ。許してやろう。我々ができるのは一刻も早く助けに戻ることだ。」
モーターボートは釣り客を4人乗せて湖国へ急いでいた。
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