山上管理官
堀野刑事たちは捜査本部を八幡署に置いていた。彼らは得られた情報をもとに容疑者の割り出しを急いでいた。そこに山上管理官が大勢の捜査員を連れて現れた。
「管理官、どうされたのですか?」
「どうもこうもない。我々が追っている容疑者が、湖上者が関わっている事件を起こしているというじゃないか。それなら捜査1課が主導権を握って捜査しなければならん!」
山上管理官は正面の椅子にどっかり腰を据えて言った。
(相変わらずだな。お山の大将ぶりは・・・)
堀野刑事はそう思いながらも、資料を差し出した。
「お聞きになっているとは思いますが、現在、琵琶湖でサバイバルゲームが行われ、そこで撃たれて退場になった人が水中ドローンで殺されました。さらに一般の釣り客も殺されています。釣り客の方は身元がわかっていますが、サバイバルゲームの参加者は身元を示すようなものを持っておりませんでした」
「彼らの身元を調べなければならんな」
「それがサバイバルゲームの参加者全員にRキット社からゴムボートや電動ガンなど一式送られていました。その名簿が手に入ったところです」
山上管理官は資料をぱらぱらとめくってみた。そこからはつながりは見えない。
「今はその名簿をもとに過去の事件を洗い出しています」
「怨恨の線というわけだな」
山上管理官は堀野刑事の言葉にうなずいた。
「それからRキット社で道具一式を送った担当者、上野順一と連絡が取れません。もしかすると事件に何らかの関係があるのかもしれません」
「うむ。そいつも怪しいな」
山上管理官は近くにいた部下に合図した。すると堀野刑事にファイルが渡された。
「シスターワークス社から水中ドローンが盗み出された件だ。あれから容疑者が浮かんできている」
堀野がファイルを開くと、そこには捜査1課が調べた捜査資料が入っていた。
「当初はテロ組織、犯罪組織を疑っていた。『赤い悪魔』の幹部、堂島正子の姿が滋賀のあちこちで目撃されている。だが断定はできない。また開発に携わっていた日本人研究者の神海渡という男も怪しい。研究者の中で彼だけが姿を消している。彼は水中ドローンのことはもちろん詳しく、内部事情にも通じている」
「では犯人はその2人に絞られますか?」
「いや、そうでもない。水中ドローンが消えたのは、公安部の家宅捜索の情報が流れて職員がすべて逃げ出した時だ。研究所がしばらく無人になっていた。その状況で持ち去ったようだ。トラック1台分だから誰にでもできる」
水中ドローン盗難の捜査はまだ継続中だった。
「だが容疑者は浮かび上がってきている。もう少しで事件の全容がつかめるはずだ」
山上管理官には確信があった。捜査1課の総力が加われば、犯人を逮捕できるのも近いかもしれない。
「琵琶湖にいる20体近くの水中ドローンをとらえるのは無理ですから、そのコントロールを奪うしかありません。琵琶湖の事件を解決するのは、犯人を一刻も早く捕まえるしかないと思います」
それしか今のところ、早期に解決できる道はない・・・堀野刑事はそう思っていた。
「ところで湖上署の連中は何か言ってきたかね?」
やはり山上管理官は湖上署の動きが気になるようだ。
「琵琶湖にいる人たちを早く保護しようと懸命になって動いています」
「うむ。湖上署はそれでいい。もっともあの水中ドローンが活動しているから、我々には手が出せんからな」
山上管理官は湖上署に救援を送る気はないようだった。(それは仕方がない)と堀野刑事は思いつつ、もう一つ、重要な情報を伝えた。
「ところで管理官。水中ドローンについて湖上署から連絡がありました」
「彼らは水中ドローンを1体確保したんだな」
「はい。ショットガンを撃ってやっと止めたようです」
「本来ならすぐに引き取って、科捜研で詳しく調べるのだが・・・」
「湖上署に少し機械に詳しい者がいて調べたところ、その水中ドローンに指示を与える電波の特性から50㎞以内。障害物があると届かなくなるようです」
「するとどこかの湖岸に犯人がいるというわけかね?」
「いえ、それでは届かない可能性もあります。犯人は湖上にいます!」
堀野刑事はそう断言した。彼は様々な情報からそう考えたのだ。
「それではどこかの船に?」
「はい、船の可能性もありますが、水中ドローンに襲われないように青い点を表示するタブレットを所持する必要があります。しかしそこから居場所がわかってしまいます。私は犯人が島にいると考えています」
琵琶湖の島と言えば、沖島、多景島、竹生島、沖の白石の4つだけである。
「なるほど。確かにそうだ。琵琶湖は危険だがそこに渡る準備を指示しよう」
山上管理官はそれだけ言って席を立って、部下に指示を与えた。もう堀野刑事のことなど忘れたかのように・・・。
(やれやれ、また管理官に振り回されるのか・・・。しかし事件の解決の糸口は見つかった。それまで湖の人を守ってくれよ。佐川)
堀野刑事は心の内でつぶやいていた。
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