作戦失敗
堀野刑事は捜査員を連れて彦根港から出発した。彼が乗るのはチャーターした観光船である。約20分で島に到着する。今の時期を除いて、普段は日に2便、そのうち1便は島に上陸できる。
その島はかつて竹島と呼ばれていたが、眺める角度のよって様々に島影が変化するため、多景島と呼ばれるようになったという。
堀野刑事たちが島の形が見える距離になったとき、急にあたりに波が立ち始めた。
「現れたか!」
ここでは島に着く前に水中ドローンが現れたのであった。盛り上がった波が船に近づいてくる。同行していたライフル銃を持った警官が狙いをつけた。すると声が上がった。
「あっちからもだ!」
すると別の方向からも盛り上がった波が近づいてきていた。そしてまた別のところからも・・・。船は水中ドローンに囲まれようとしていた。
「撃て!」
「バーン!」「バーン!」「バーン!」
ライフルが発砲するが、波を追い払えない。その代わりに水中銃の矢のような弾丸が飛んできた。シールドでなんとか防いでいるが、捜査員には明らかに動揺の色が見えた。そして水中ドローンの体当たりが・・・。
「ドーン!」
船体が大きく揺れた。船長を見ると恐怖で震えている。
「もう無理です・・・引き返します!」
船長は堀野刑事の返事も聞かずに舵を切った。堀野刑事はこのまま突進して島に向かいたかったが、船長の意思には逆らえない。
(ダメか。ここは退くしかない・・・)
堀野刑事は無念だったが、このまま引き返すしかなかった。やがて彦根港に近づくころには水中ドローンはいなくなっていた。
(この多景島に何かがあるのかもしれない。こうまで多くの水中ドローンが見張っているのだから)
堀野刑事は多景島の方向を見ながらそう思っていた。
◇
山上管理官は焦っていた。あれほど犠牲を出してシスターワークス社の研究所を調べたが誰もいなかった。いや、何一つ残されていなかった。
「ここではなかった・・・」
そして水中ドローンによって多景島の上陸が阻まれたことを知らされた。状況からしてその島を捜索するのは簡単ではないと思われた。
残りの一つ、竹生島の状況はどうだったかと久保課長に電話を入れた。
「山上だ。こちらは空振りだ。多景島への接近は失敗だ。そっちは?」
「こっちも手がかりすらありません。それより厄介なことになりました」
「厄介なこと?」
「はい。乗ってきたボートがすべて水中ドローンにやられてしまったのです」
岸に近づくボートはすべて破壊するように水中ドローンはプログラムされている。そのため竹生島行に使った船やボートがやられたのだ。
「こっちは動きが取れません。迎えの船が来ないと戻ることができません」
「わかった。船を手配する」
それで電話を切った。しかし犯人を捕まえて水中ドローンを止めなければ迎えの船を派遣することはでいない。またやられてしまうのは火を見るより明らかだった。
「戻って捜査を立て直すか・・・。多景島捜索も作戦を立ててやり直さねばならんからな」
だが時間は刻々と過ぎていく。時間が少なくなっていた。その時、沖島港から報告が入った。
「船とボートがすべてやられました。水中ドローンの攻撃です!」
島の向こうに回った捜査員を襲った水中ドローンは、今度は港に泊めてあった船やボートを攻撃したのだ。そこにあった漁船は何とか助かったようだが、捜査員や警官が乗ってきた船やボートはすべて穴をあけられて沈んでしまった。水中ドローンに狙い撃ちされたとしか思えなかった。
「しまった! これでは動きが取れない!」
捜査1課の捜査員は応援の警官ごと、沖島と竹生島にくぎ付けになってしまった。
「くそ! この上は県警本部に報告して応援を呼ぶしかない!」
山上管理官はプライドをかなぐり捨てても、何とかしなければならない状況に追い込まれていた。
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