逃げる村岡
村岡は水野巡査を抱えたままモーターボートに乗り移った。そして開いている後部ドアからモーターボートを発進させるため、近くにあるスイッチを押した。するとモーターボートは開いている後部ドアの方にゆっくり動いた。佐川刑事は拳銃を構えて村岡を狙うが、水野巡査を盾にしているために撃つことができない。横にいる飯塚刑事はただ茫然と見送っているだけだった。もちろん荒木警部たちは間に合わなかった。
(これまでか・・・)
どうにもできない佐川刑事は構えた拳銃を下ろした。村岡は人質の水野巡査とともにモーターボートで湖に押し出されようとしていた。彼は悔しがる佐川刑事たちを見ながら満足げに笑っていた。少し緊張が緩んだ・・・。
その時、水野巡査がさっと動いた。右肘で村岡の腹を痛打すると、その腕から抜けだした。そしてすぐにモーターボートから飛んで離れ、床を転がって逃れた。
「待て!」
村岡が水野巡査に拳銃を向けた。佐川刑事はとっさに拳銃で狙って村岡を撃った。
「バーン!」
発砲音が響き。村岡は右肩を撃たれて拳銃を落とした。そしてそのはずみにポケットに入れていた彼のスマホが外に飛び出した。
「あっ!」
村岡の左手は拳銃ではなく、スマホを追っていった。そしてそれは彼の左手に収まった・・・かに見えたが、すぐにつるりと手のひらからこぼれ落ちた。銀色のスマホは照明に輝きながらモーターボートの縁を踊るように転がり、やがて艇庫の床に鈍い金属音を立てて落ちて行った。
「あっ! あっ!」
村岡は声にもならない音を発して左手を伸ばした。しかしスマホに届くはずはなかった。その間にもモーターボートは押し出されて、やがて湖の中に入った。そして波に流され、すぐに湖国から離れて行った。
村岡は湖面に異変を感じて周囲を見渡した。そしてそれが何であるかがわかった時、その顔が絶望感に満たされた。次の瞬間、周囲の水面から彼の方に飛んできたのだ。
「ぐわあっ!」
村岡は水中銃の矢のような弾を四方から浴びていた。彼は集まってきていた水中ドローンに囲まれて殺されてしまったのだ。撃たれないはずのスマホを落としたばかりに・・・。彼は血だらけになり、そのまま倒れた。
飯塚刑事は顔をそむけたが、佐川刑事はその悲惨な状況をじっと見ていた。この恐ろしい罪を犯した者の最期を見届けねばならないと思っていたのかもしれない。
やがて佐川刑事はそこから目を離すと、床に倒れていた水野巡査に駆け寄って助け起こした。
「大丈夫か?」
「私は大丈夫です。犯人は?」
水野巡査の問いに佐川刑事は湖を指さした。彼女はそこにある残酷な光景を見てはっと口を押えた。
やがて荒木警部が艇庫に到着した。
「村岡は?」
「あそこです。水中ドローンに撃たれました」
荒木警部も村岡の悲惨な姿を見てため息をついた。
「・・・モーターボートで逃走を図りましたが、水中ドローンに撃たれました・・・」
佐川は荒木警部にその状況を説明した。
「そうか・・・。村岡は死んでしまったが、水中ドローンを止める方法はないのか?」
荒木警部はそう言ったとき、飯塚刑事は床に村岡のスマホが落ちているのに気付いた。彼女は慌ててそばに行って拾うと、床に座り込んで画面を開いた。
「警部。ここから操作できるかもしれません!」
「そうか! 頼むぞ!」
飯塚刑事は懸命にスマホを操作した。使い慣れない独特なものだったが、やがて水中ドローンのアプリに行きついた。それをすぐに停止させた。
「アプリを停止させました。これで水中ドローンは活動を停止したはずです」
飯塚刑事はうれしそうにスマホの画面を荒木警部に見せた。
「そうか! よくやった!」
荒木警部は飯塚刑事の肩をポンと叩いた。そばにいた佐川刑事もやっと長い戦いが終わったとほっとして「はあっ」と息を吐いていた。
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