怪物の正体
湖国の艇庫には透明のシールドを構えた署員が集まって事態を見守っていた。佐川たちがジープで水中からあの怪物を引き上げたのだ。「ウィーン」と電動音が艇庫に響き渡る。ウインチが徐々に巻き上げられ、水の中から2メートル近い流線型の影が浮かび上がって来た。
「気をつけろ!」
荒木警部が周囲に声をかけた。相手は強力な水中銃を発射する。シールドで防御しているが危険なことには変わりはない。
怪物には暴れることもなくそのまま静かに水の中から姿を現した。銀色のヒレのないサメのような形をしていて照明の光を反射している。フックが顎のような部分に突き刺さり、えぐれた金属の外皮の隙間からショートしたような火花が見える。これは生物ではなく機械だ。ただ全く動かなくなっている。
「衝撃で壊れたのでしょうか?」
梅原刑事がジープを下りて、シールドを構えて近づこうとした。
「ちょっと待て!」
荒木警部が叫んだ。それと同時に怪物がその場ではねた。そして向きを変えて署員に水中銃を放とうとしていた。怪物は完全に機能停止していなかったのだ。
「うわっ!」
その場にいた署員は驚いてシールドを構えたまま後ろに下がった。怪物はさらに暴れて艇庫の壁にぶつかって辺りを破壊しようとしていた。
「どいて!」
後方から鋭い声が響いた。それは中野警部補だった。彼女は2連発のショットガンを構えている。
「ズドン! カチャッ! ズドン!」
中野警部補は怪物にショットガンを2発撃ち込んでいった。怪物はのたうち回りながら煙を吐いてやっと動かなくなった。
「危なかった・・・」
驚いて腰を抜かしていた梅原刑事が何とか立ち上がりながらつぶやいた。
「署長の許可を取ってショットガンを用意してよかったわ。もう大丈夫でしょう」
中野警部補はこともなげに言った。荒木警部と佐川は恐る々々そばに寄って怪物の「死骸」を眺めた。頭にはカメラなどのセンサーが集まり、その体には弾丸を発射する穴が左右にひとつずつ、尻尾に当たる部分にはスクリューがついていた。
「これが怪物の正体か・・・」
梅原刑事もそばに来て興味深そうに観察した。
「多分自立式のロボットでしょう。水中ドローンとも呼べるものかもしれません」
梅原刑事はそう言ったものの、詳しいことはわからなかった。佐川刑事はこの怪物を眺めながら、
(こんなもの、誰が? 何の目的で?)
と謎ばかり浮かんできていた。
「梅原。今はこれを科捜研に運ぶことはできない。だからお前でこれをもっと調べてくれ。何かわかるかもしれない」
「わかりました。とにかく湖の怪物は退治できたし。これで安心ですね」
梅原刑事はもう事件が解決したかのようにのんきな言葉を発していた。それはそこにいる者すべてが抱いていた気持ちだった。
だが決してそうでなかった。その時、そのほっとした空気を壊すかのように船内電話が鳴り響いた。まるで不吉な前兆であるかのように・・・。荒木警部が受話器に手を伸ばしてそれを取った。
「荒木だ・・・何だと!」
荒木警部が驚いて思わず大きな声を上げた。とんでもないことが起こったようだ。彼の顔つきがみるみる険しくなっていった。
「一体、どうしたのですか?」
佐川刑事が尋ねた。荒木警部は受話器を戻すと、皆の方に向き直った。
「大変な事態になった。さっき警備艇『せた』から連絡があった。釣り客が波に隠れた怪物に襲われているそうだ。それに『いぶき』や『にお』からも同様の連絡があった」
「それでは・・・」
「ああ、そうだ。あの怪物は1体だけじゃない。複数いるのだ。もしかしたら琵琶湖の水中に多数、潜んでいるのかもしれない」
あんな怪物がこの琵琶湖にまだまだ多くいるとは・・・佐川刑事は容易ならざる事態に唇をかみしめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます