怪物との死闘
佐川刑事と梅原刑事を乗せたジープが湖面を疾走した。向かうは署員のボートに襲い掛かろうとする波である。その波は湖面に盛り上がり、白い泡の航跡を残しながら進んできていた。それに気づいた署員は必死に逃げて湖国に戻ろうとするが、あと少しで追いつかれそうになっていた。
「ちょっと揺れるぞ!」
佐川刑事はスピードを上げたまま舵を切った。ジープは傾きながらも右に回り、ボートと波の間に入った。このままではジープの横っ腹に衝突すると思ったのか、波は急にスピードを緩めた。
「今だ!」
佐川刑事が指示すると、助手席の梅原刑事が拳銃を波に向けて撃った。
「バーン! バーン! バーン!・・・」
銃声が響き渡った。波はその場に沈み、急に静かになった。
「佐川さん! やりましたよ!」
「いや、まだだ!」
佐川刑事にはあの怪物がそんな簡単にやられるとは思えなかった。彼はジープをその場を回るように走らせて湖面を観察していた。するといきなりジープの正面に波が立った。
「やはり狙っていたか!」
佐川は舵を切った。だがその前に矢のような弾丸が続けざまに2発飛んでいた。
「バリーン! バリーン!」
その弾丸は佐川と梅原の前のフロントガラスに当たった。だが幸いなことに突き抜けることはなく、フロントガラスを貫いてそのまま止まった。
「佐川さん。まずいですよ。あの弾丸はジープのガラスを撃ち抜けますよ」
「いや、何とかガラスで受け止められそうだ。それより奴を止めなければ」
佐川刑事は旋回して波を追いかけた。水中銃は後ろには撃てないようだ。それに速度は船外機付きボートよりは少し早いが、ジープやモーターボートに比べれば遅い。みるみる距離を詰めた。
「梅原! よく狙うんだ!」
助手席の梅原刑事は体を半分乗り出して拳銃を構えた。佐川刑事もホルスターから拳銃を抜いた。そして左手でハンドルを操作しながら、右手を窓の外に出して波を狙った。
「撃て!」
2人の拳銃が火を噴いた。それは波に吸い込まれるように命中しているが、動きに変わりはなかった。そしてやがて波はまた消えた。
「また消えましたよ!」
「いや、奴はまた来る! 水中でこちらを狙っている」
佐川刑事は辺りを見渡した。やはり湖面に異常はない。どこからともなくあの波は急に出現して襲ってくると佐川は感じていた。
(このままでは俺たちが撃ち抜かれるか、ジープを撃ち抜かれるか・・・。拳銃では効果がないのか・・・何とかあの怪物を仕留める方法を考えなければ・・・)
その時、佐川刑事にはある考えが浮かんだ。
(あれをやってみるか。危険だがやむを得ない・・・)
佐川刑事は横のレバーを操作した。
「佐川さん。どうするんですか? そんなものを起動させて」
「まあ、見てろよ。マグロの一本釣りをしてやるからな」
佐川刑事がそう言ってジープを走らせていると、今度は後方に波が立った。
「佐川さん! 後ろです!」
「よし! バックだ!」
佐川刑事はギアを切り替えた。するとジープは急減速し、やがて波がジープを追い越そうとした。
「よし! 行け!」
佐川刑事は横のあったスイッチを押した。するとモーターが回る音がした。それはジープのフロントに取り付けた電動ウインチだった。フックのついた鋼鉄ロープが繰り出された。それは水中を漂い、やがて波に飲み込まれて「ガリッ」と何かをひっかけた。その衝撃でジープは大きく揺れた。
「かかった!」
佐川刑事は電動ウインチを巻き上げた。しかし波の中の怪物はひどく抵抗してジープごと湖面を引きずろうとしていた。
「負けるか!」
佐川刑事はジープを後退させた。ウォータージェットが前方に激しく噴出する。フックでとらえられた怪物は必死に振り切ろうと鋼鉄ロープを引っ張った。両者の間で湖上の綱引きが始まった。
(パワーなら負けないはず、後は鋼鉄ロープがどれほどもつかということだけだ・・・)
佐川刑事がアクセルをぐっと踏み込むと、ジープは次第に後進し始めた。波に隠れた怪物はのたうち回るように暴れるが、ジープに水中を引きずられていく。やがて怪物はあきらめたかのように抵抗を止めておとなしくなった。
(あとはこのまま釣り上げるだけだ!)
佐川刑事は慎重にジープを後進させて、湖国の後部ドアから戻って来た。ジープから伸びた鋼鉄ロープの先にはあの怪物がいるはずである。艇庫にはその怪物を取り抑えようと、署員がシールドを手にして待ち構えていた。
「巻き上げるぞ!」
佐川刑事が周りにそう声をかけた。そしてウインチが鋼鉄ロープを巻き取り始めた。手ごたえは十分、ピンと張った鋼鉄ロープの先にあの怪物がいるのだ。それを少しずつ手繰り寄せる。その場は言いようのない緊張感に包まれていた。
「もう少しだ!」
いよいよ怪物の影が水中に見えてきた。それは2メートル程の長さの流線型の物体・・・。照明の光を反射してキラキラと輝いている。
「なんだ! これは!」
佐川刑事はそれを見て思わず声を上げた。
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