復讐の仕上げ

村岡の告白1

 村岡は奪った拳銃をもって艇庫に向かっていた。そこには水野巡査が作業をしていた。他には人影はない。彼は水野巡査を後ろからそっと近づいて拳銃を突きつけた。


「動くな! 言う通りにしたら撃たない」


 村岡は低い声で言った。水野巡査は自分の置かれている状況を知り、黙ってうなずいた。


「よし! このままモーターボートを発進させろ! お前は人質になるんだ!」


 水野巡査は操作盤のそばにゆっくり向かった。そして操作盤のボタンを押すと、後部ドアがゆっくり開いて言った。村岡はそれを見ていた。水野巡査は村岡の様子を伺い、その隙を見て非常ボタンを押した。それはブリッジに異常を知らせるものだった。


(誰か、気づいて!)


 水野巡査は心の中でそう叫んでいた。するとそこに足音が聞こえてきた。誰かが艇庫に近づいてきていた。それは村岡にもわかったようだった。彼がその方向に振り返ると、艇庫のドアが開いた。そこから出てきたのは飯塚刑事だった。

 彼女は水野巡査を人質に取っている村岡を見た。その顔はあの優しそうな和尚さんの顔ではない。復讐に執念を燃やした鬼のような顔だった。それでも彼女は村岡に優しさが残っていたなら・・・と期待して話しかけた。


「村岡さん。もうやめてください! もう十分でしょう」

「いいや。まだまだだ。私の復讐は終わっていない!」


 村岡は飯塚刑事に拳銃を向けてそう言った。そこに佐川刑事が駆けつけた。村岡を見て彼は拳銃をかまえた。


「やはりお前が主犯だったか!」

「ふふん。やっと気付いたか。そうだ。私がこの復讐劇を企んだのだ!」


 村岡はニヤリと笑った。


「上野と神海を利用したんだな。」

「ああ、そうだ。元々、上野は2年前の事故の情報提供者だった。彼はおうみ丸のサバイバルツアーの担当者の一人だったのだ。彼はギャンブルで多額の借金を抱えていたから、私が援助しようと申し出ると、喜んで社内の情報を流してくれた」


 上野とのつながりは深いようだった。


「船長も船会社も起訴されず、私は民事裁判を起こした。だがあれほど準備をしたのに負けてしまった。私は自暴自棄になり、会社も人手に渡した。私は出家して多景島に籠ったが、もう世間を恨んで生きるしかなくなったのだ。そんな私に好機が巡ってきた」

「復讐を思いついたんだな」

「そうだ。それも全員いっぺんに・・・。私の周りに様々な情報が流れてきた。私の会社はシスターワークスとも取引があったから、水中ドローンのこともうすうす知っていた。そして公安に踏み込まれて研究所がつぶされたこと、開発者の神海がとっさに湖に水中ドローンを隠したことも知った」


 村岡がそんなことまで知っていたのは意外だったが、シスターワークス社の内部情報が流れていたのかもしれない・・・佐川刑事はそう思った。


「私は神海と連絡をとり、水中ドローンの貸与を申し出た。それで彼は交渉のために多景島まで来た」

「そこで恐ろしい計画を立てたのだな」

「そうだ。私はおうみ丸の関係者だけでいいと思った。だが神海は『それではすぐにばれて捕まる。いろんな奴を巻き込んだ方がいい』と提案してきた。いや、脅してきた。『俺の言う通りにしないと警察にタレこむ』と。それで神海がいつも見ている掲示板の『悪人』もターゲットにすることになった」


 それでサバイバルゲームの参加者に様々なものが混じることになった。大橋署長が気づかなかったら容疑者が絞れなかったのかもしれなかった。


「それでその人たちに多額の賞金をちらつかせてサバイバルゲームに参加させたのだな?」

「まだつながりのあった上野はRキット社の開発部にいた。彼は水上でのサバイバルゲームの提案をしてモニターを集める段階だったという。私は借金まみれの上野に金を与えて計画に加わらせた」

「それでターゲットをうまくサバイバルゲームに参加させたのだな?」

「上野はその点、天才的だった。高額な賞金をちらつかせたり、弱みを握ったり、脅したりして参加させた。行方の分からない橋本や吉村までも探し出してきたのには驚いたがな」

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