捜査1課の事件
「堀野! 事態は急を要しているんだ。いくら極秘捜査であっても、多くの人命がかかっているんだ。教えてくれ!」
佐川は電話で堀野刑事に必死に訴えた。水中ドローンについて県警捜査1課は何かを知っている。その情報がないとこれからの捜査や救出作戦は行えない・・・佐川はそう確信していた。それは堀野刑事もそうだった。
「わかった。秘密にしてくれ・・・と言いたいが、そちらで対策を立てるのにはそうはいかないだろう。俺の独り言を聞いていたことにしてくれ」
「ありがとう。助かるよ」
「実はな・・・」
堀野刑事は話し始めた。
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今から1か月前のことだった。警視庁の公安部から捜査1課の山上管理官に電話があった。それは極秘捜査のことだった。
中国系企業のシスターワークス社がドローン兵器の開発を日本で行っているという。日本ならあらゆる技術者が余っているし、力のない日本企業を買収して製造設備が簡単に手に入る。そして何よりも警察の監視の目が緩いからというのが理由のようだ。
そのドローン兵器の一つが水中ドローンだった。その開発場所として琵琶湖が選ばれた。広大な湖であり、海ではないので波が緩やかで水中航行実験にはもってこいというのだ。人目につかぬように沖島の森林の土地を購入し、中国人金満家の大きな別荘としてコンクリートの建物も建てた。もちろん中は研究所となっている。
だがその動きはさすがの警視庁公安部も気付いた。相手は巨大な中国企業、中国政府ともつながっているので外交問題にならないように秘密裏に処理しようとした。特別に滋賀県に公安警察官を派遣し、家宅捜索で違法事案を摘発していった。
そして公安部の思惑通りに中国系企業は撤退していった。日本政府ともめたくなかったし、水中ドローンの開発に目途がついたから目的を達したからだろう。これで世間の人に知られず、何もかも終わるはずだった。
だがそこで大きな問題が起きた。開発した水中ドローンが消え失せたのだ。研究所にいる責任者に話を聞いたが、はっきりしないまま中国に帰国してしまった。考えられるのは誰かが持ち出したようなのだ。その行方について警察庁公安課を通して滋賀県県捜査1課に極秘捜査に依頼があったのだ。
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堀野刑事の話は驚くべきものだった。
「それでその水中ドローンの捜査はどうなっていたんだ?」
「研究所や関係者の周辺を捜査したが、何も出てこなかった。捜査1課は総力を挙げてその行方を追っていたところだった」
「それが今回、水中から姿を現したというわけだな」
「ああ。そうだ。もしかすると琵琶湖の底に隠していたのかもしれない。まさかそんな長い間、水中においておけるとは思わなかった」
捜査1課が調べていていたことが恐るべき形で出てきたのだ。
「それは誰の仕業と考えているんだ?」
「容疑者は絞れていない」
「内部の者の犯行か?」
「そうとも言い切れない。前々からシスターワークス社が沖島で兵器の研究をしている噂があった。その会社が撤退の際はセキュリティーが甘くなっていたから、外部の者でも忍び込んで犯行が可能だ」
水中ドローン盗難の捜査が難航していたのは極秘捜査を行っていたこともあるが、犯人が絞れないことも一因だった。
「そうか。まだわからないんだな」
「怪しい者をピックアップしている。それで容疑者が浮かび上がってくるだろう」
堀野刑事はそう答えた。水中ドローン盗難から犯人を絞ることは難しいようだ。
「それなら水中ドローンの性能については知っているだろう。教えてくれ」
「俺も断片的なことしかわからない。なにせ公安部は秘密主義だからな。内蔵する燃料電池で充電なしで3日間の行動が可能。拳銃弾程度の耐弾性がある。弾丸の発射機能がある・・・その程度だ」
それは佐川刑事たちにはわかっていた。
「その水中ドローンのコントロールについてはどうだ?」
「AIである程度の自立行動が可能だが、ネットにつなげてどこからでもその行動を指示することができるらしい」
「ということはある指示を与えておけばその通り行動する。湖上の人間を抹殺することもできるわけか・・・」
多分、タブレットの信号を読み取って、青の表示以外の人間と船を攻撃するように指示を受けているのかもしれない。
「わかった。とにかくこちらは湖にいる人を救助する。ところで消えた水中ドローンはどれくらいの数だ?」
「ああ、20体程度だ」
「20体!」
佐川刑事は絶句した。あんな怪物が20体もいるとは・・・。窓から見える琵琶湖はまだ霧に包まれている。視界が遮られた人たちが知らないうちに水中銃で次々に殺されている。琵琶湖はもうすでに殺人湖と化してしまっていたのだ。
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