『デスゲーム』
それから1か月はその事件が新聞の紙面をにぎわせていた。ニュース番組でも大きく取り上げられ、政府の対応が大いに批判された。その事件とは琵琶湖でのサバイバルゲームでの殺人ではなかった。第53ひえい丸の核物質の移送の件だった。
「そんな危険なものを安易に輸送してどうなるのです!」
「貨物船を使って琵琶湖を横断しようとして危険と思わなかったのですか!」
「陸路の方が安全じゃないのか!」
「船が座礁したというじゃないか。もしものことを考えなかったのかね!」
マスコミが徹底的に政府を非難した。だがそこにはあのサバイバルゲームのことも水中ドローンのことも、そして船をジャックした赤い悪魔の堂島正子のことも言及されなかった。国家レベルの機密のため報道規制がかけられたのだ。ただそれでは納得しない記者のために、交換条件として核物質の移送の件だけが報道を許されたのだ。
あのサバイバルゲーム殺人事件はというと被疑者死亡で捜査は中止になっていた。もちろん政府からの圧力があったことは確かだった。村岡が語ったこと以外、後は何もわからずにすべてが終わってしまった。しかも警察内でもその事件は機密事項とされ、関わった警察官には守秘義務が課せられた。
もちろん琵琶湖で水中ドローンに殺された人の関係者や救助された人には厳重なかん口令が敷かれた。中には微細な罪で逮捕されて外部と連絡が遮断される人もいた。あの事件のことは絶対に外部に漏れぬようにと。
それはあまりにもショッキングな事件であり、中国系企業のシスターワークスが絡んでいるからだった。公になれば外交問題になる。それだけでなくそれを許した日本政府に対して政権を揺るがしかねないほどの反発が起こる。それ加えてシスターワークス、いや中国政府と日本政府との間に何らかの密約が成立していたからだった。
それでも人の口に戸は立てられない。一つの噂になって世間に回った。恐ろしい殺人兵器である水中ドローンの存在が・・・。それは兵器産業を牛耳る死の商人の間に浸透していった。
「シスターワークス社の水中ドローンが警察の攻撃を跳ね返して、多くの人を水中銃で殺め、体当たり攻撃で多くの船に損傷を与えた。それも1台のスマホで簡単に操作できる・・・」
シスターワークス社はこの波に乗って各国に水中ドローンのセールスを開始した。琵琶湖で「実績」を残したこの兵器は注目を浴びていた。商談ではシスターワークス社の社員が説明していた。
「水中ドローンです。AIを搭載し自律行動が可能、水中銃を備えており、自律型殺人兵器として使えます。名前をデスゲームと名付けました・・・」
この開発担当国に日本も上がっていた。それはこの危険かつ強力な兵器をいち早く導入するためだった。海に囲まれた日本には水中ドローンがぜひとも必要だった。水中から迫りくる外敵から日本を守るために・・・。
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