4 ”支援者”の到着

 目の前に映ったのは、馬鹿げた大きさの槌を地面に振り落とした大男の後ろ姿だった。相手の持っていたサーベルの柄ごと叩き折ったのか、”奴ら”、丸顔の男が一度、自分たちと距離を取ったのがわかった。


「え?」

 黒澤は言葉を失った。身を乗り出す。大男と思ったのは自分が伏せていたからで、男の身長は180ほどだろうか。自分より大男なのは間違いないが。わけもわからず出てきた名前を口にだしてしまった。


「伊野田か?」

 すると、男はこちらに背を向けたままわずかに首だけをピクリと動かした。銀髪が揺れる。そしてゆっくりと、前方を気にしつつ黒澤を睨みつけると、半眼になって苦言を漏らした。


「このボクを、と間違えるなんて……。失礼にも程がありますよ」

「あんた、誰だ?」

「ボクの名を聞きたければ、ひとまず立ち上がりたまえ。そしてここを切り抜けて”ワニの歯”の回収に貢献できれば、教えてやってもかまわない」

「はぁ? なんだって? ”ワニの歯”?」


 黒澤はゆっくりと立ち上がりながら反論した。動ける。しかし全く意味がわからない。わかるのは、目の前の男が大槌を振り落としたおかげで自分が助かったことだけだ。高見も身を乗り出し、声を荒げている。


「黒澤さん!」

「高見さん、大丈夫?」

「もう! 聞きました? 回収物資“ワニの歯”だなんて! そんなだっさい物資のためにこんなとこまではるばるやってきたんですよ、私たち!」

「んん?」


 ひとまず高見が大丈夫なことは一目瞭然だが、彼女は悔しげに握りこぶしをつくって力説している。シールドはきちんと構えていたが。丸顔の男の動きはまだ見えない。

「回収物資の名前のダサさに震えそうですが! ここまで来て、あんな奴らと遭遇して手ぶらで帰れません! 全部ぶちのめして回収して帰りますよ! じゃないと悔しくて震えそうです!」

「俺は満身創痍で震えそうだよ」


 黒澤があきれ顔を向けていると、二人の前に立っていた銀髪の男、まだ若く見える……がこちらの様子を伺っていた。その表情は厳しい。彫刻のように整った横顔を向け、二人を睨んでいる。黒澤も厳しい表情を向けた。銀髪をかき上げて、若い男が口を開く。


「まったく……、まさかこのボクが君たちのようなチームの支援をする羽目になるなんて……。ひどい仕事を依頼してくれたものだ。帰ったら文句を言ってやる。さて、よく聞きたまえ。”奴ら”に普通の武器は通用しない。とは言っても、弱小チームのキミたちが対応できる武器を持っていないことも承知している。ここはボクが引き受けてやるから君たちは物資を回収したまえ」


「言われなくてもそうさせてもらうよ」

「”ワニの歯”かぁ…」

「高見さん、もう少しやる気だして」

 黒澤はそう言って、丸い目を鋭くさせた。そして銀髪の男が再び両手で大槌を振り上げた瞬間を見計らい、黒澤は高見の腕をひっつかんで駆けだした。

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