7 ”奴ら”
階下に降り立つと、そこは施設というよりもどこかの機関室を思わせた。灯りはほとんどなく、むき出しの鉄骨とケーブルで組み込まれた場所で、所々に計器が埋め込まれている。
それが何の意味を示しているのかわからなかったが、二人は先へ進んだ。高見も黒澤も小柄なため頭をぶつけることは無かったが天井は低かった。どこか潜水艦の内部を思わせる内装だと黒澤は思った。
やがて目の前に、丸い小窓のついた小さな扉が現れた。黒澤が確認し、ハンドルに手をかけて扉を開くと、広い空間が広がっていた。黒澤は息を飲んだ。廃棄場の地下にこんな洞穴があるとは思っていなかったが、ここはもともと渓谷だ。地下を流れていた水源に削られてできた場所ならありえるだろうなと思いつつ、ライトをつけた。
天井から水滴が落ちてくる。崩落しないか心配になったが、ライトで確認すると所々補強されていた。かなり以前から人為的に手が加えられていたとすれば、この案件もいよいよキナ臭くなってくる。横では高見佳奈が端末を手にし、回収物資のポイントを見ていた。こちらを見ずに口を開く。
「ここまで来て、出直すなんて言わないですよね」
「明らかに怪しいことは否定しないが」
「良かったです。いまこの案件を蹴って、他の業者が引き継いだら全部パァですからね。アタッカーの分まで働いてくださいね」
「少しは俺をいたわってくれ」
「終わったらいたわります。行きましょう!」
高見はそう言って、意気揚々と先へ進んだ。自分はこのタイプの女性に振り回されがちだなと思いつつ、黒澤は後に続こうとしたが、急に立ち止まった。
「他にも足跡が、……あるな」
それを聞いて、高見は立ち止まった。そして懐から素早く何かを取り出す。傘の柄のように見えたそれを、文字通り傘を広げる様に構えると、彼女の目前にプリズムの多面体が広がった。同時にそれが何かによって弾かれ、勢いで彼女は転倒した。
突然のことに黒澤は驚き、彼女に駆け寄る。高見は尻餅をついたがすぐに立ち上がった。
「大丈夫か」
「はい。岩場でゴツゴツしてるんでお尻痛かったけど……。なにか居ます。ああぁ!!」
「どうした」
突如高見が声を上げたので黒澤は何事かと彼女の様子を伺った。怪我でもしたのかと思ったが彼女自身はケロっとしている。表情は曇っていたが。
「これぇ、シールドに亀裂が入ってます。高かったのに……! 一撃でこれですよ」
彼女はそう言って、シールドを掲げて見せた。半透明なのでわかりにくいが、確かに亀裂が入っている。通常の攻撃だったら、例えば近距離の爆発でも凌げる効力はあるはずだ。ただ事ではない。
「気をつけろ。俺たち以外に何かいる」
「はい」
黒澤は電磁グレネードを構えた。高見も再度ホログラムシールドを広げる。まだ効果はある。
すると、岩場の影から人影が現れた。
岩に細い足をかけ、こちらを見下ろしている。細長いシルエットに、高見はそれをマネキンのようだと思った。次第に全身が明らかになると、女性の姿をしていた。
金髪のボブカットに、軍服のような衣装を着ている。衣装だと思ったのは、メトロシティでは見慣れない装飾だったからだ。本当に、何かの撮影かと思った。そう思いたかった。
女は何も言わずに、背中から何かを取り出した。高見が持っているシールドの柄と同じくらいのサイズなので、同業者かと思ったが、それは次の瞬間に払拭された。
女は柄を振り上げる。昔テレビで見た、魔法使いが杖を振る動作に似ていた。それを使ってS字の起動を描くと、その空間に描いた軌道が浮かび上がり実体化した。まるで本人にしか見えていないパレットから、痕跡を取り除いたようだった。それをゆったり眺めている暇など与えてくれなかった。
女が次に腕を振ると、鞭のようにしなる武器の先端がこちらに飛んでくる。紫色の閃光が走ったと同時に、静電気のような帯電を感じた頃には、黒澤が後ろに吹き飛ばされていた。
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