6 「俺が引き付けるのね。そうだよね」
「回収地点はわかるのか?」
「あの辺ですね」
「モロに廃棄場のど真ん中だな」
「嫌ですね」
「ああ」
しばし沈黙の後、高見は腕を組んでなにやら熟考をはじめたように見えたが、ものの3秒で終了し、おもむろに口を開いた。
「黒澤さんが機体を引きつけてる間に、私が回収」
「ですよね」
そうなるだろうなと思っていたので黒澤は即答した。その後は二人とも無言で車から装備を取り出し、それぞれの持ち場へ向かった。
ネイビーの風景の中に、荒く削られた渓谷の輪郭が浮かぶ。頼りない足場を使って黒澤は少しずつ廃棄場へ滑り降りたが、完全に下までは降りなかった。自分のスリンガー閃光弾が機体に届く位置でありながら、まだ動作プログラムが起動している機体が自分の所へ来れない場所を見つけると、彼は高見へ通信をつないだ。
「こちらポイントに到着」
『了解です。私もすぐ動けます』
「ゴーグルつけた?」
『はい』
返事を合図に、黒澤は廃棄場へ狙いを定めて閃光弾を放った。それは大きな放物線を描いてポイントへ落下していく。それを見ること無く、彼はすぐに次の弾を装填した。着弾まで、2……、1……。
枝分かれした閃光が空気に線を描き、すぐに消えた。黒澤は再度構えると、すかさず二投目を放った。その輝きが消える頃には、廃棄場に放置された機体が自分を捕捉したのがわかった。まるでゾンビのように、こちらに向かってくる。
廃棄場はフェンスで囲まれてはいるが、機体によっては越えてくるかもしれない。彼はスリンガーの弾をグレネードに切り替えた。
「廃棄場で動ける機体は今のところ三体。こちらを捕捉した。移動する」
『わかりました』
高見が移動している音が聞こえる。そうこうしている間に、黒澤を攻撃対象、つまり脅威とみなした機体が彼を追ってきた。足が残っている機体の速度は速いが、ここまで登っては来られないはずだ。後の二機は地面を這うように動いている。このままゆっくり渓谷を移動し、廃棄場のポイントから引き離せばいい。
そう考えていたが、黒澤はうっかり足を滑らせた。驚く間もなく、渓谷から廃棄場へ滑り落ちる。クレーター状の立地なので、垂直落下とは行かなかったが多少は擦りむいただろう。ヒリヒリするが今は冷静さを失わないことのほうが大事だった。
『黒澤さん、落ちたでしょう』ガチャン、と何かが動作する音が聞こえた。ハッチを開けたようだ。
「落ちた。まずい」
『先にいきます』
「そうして」
高見との通信を手短に終わらせて彼はすぐに立ち上がった。フェンスをこじ開ける。足下はオートマタの残骸や部品で埋め尽くされ、暗がりのせいかどことなく地獄の入り口を思わせた。頭部、指、胴体、目玉などのパーツが散乱している。
こういうのが嫌だから、自分はスリンガーとして後方支援をしているのに……。と再度アタッカーポジション不在の状況に愚痴をこぼしたくなるが、足の速い機体は姿が目視できる位置まで迫っている。
骨組みに皮膚素材が貼られているだけのオートマタには、腕が接続されてなかった。乳房も片方無く、胴体は一部欠損している。頭髪も抜け落ちていた。自分にこの機体を、上手に停止させるスキルは持ち合わせていない。人間に限りなく寄せて製造された挙げ句にこんな場所へ廃棄された機体を、これ以上惨めな気分を味わわせること無く停止させるには、完全破壊するしかない。
黒澤は左手のスリンガーに手を伸ばし、今度は直線上に起動を描いて放った。勢いよく放たれたそれは機体に直撃すると小さく、しかし強力に破裂した。破片がいくつか飛び散っていく。すると光が収まる頃には、機体はその場に倒れ込み、完全停止した。
黒澤は廃棄場を直進しながら、残りの動ける機体へ次々にボウガンを放っていく。正直、いい気分では無かったが、半死人状態でこんな場所を彷徨わせるよりも完全停止させたほうがいいだろうと、彼は思っていた。むしろ、彼自身がそう思いたかっただけなのだが。
彼は端末を確認し回収ポイントへ向かうと、そこには廃棄されたパーツに埋もれるように、確かにハッチがあった。正方形の溝が入っており、それはエマージェンシー用の避難口を思わせた。まるでこの場所を隠しているような違和感を感じたが、彼もハッチを開き、下層へつなぐ梯子を下った。
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