6 したたかな女たち
「黒澤さん!?」
彼女は慌てて、膝を付いたまま小部屋から身を乗り出した。だが誰の姿もそこにはない。悲鳴も何も聞こえなかったということは、直撃は免れたということか。
しかし悲鳴を上げる間もなくやられたとも考えられる。薄暗く、状況がすぐ判断付かない。
次いでバネのようなものが弾ける音が聞こえた。それが黒澤がボウガンを放った音だと理解し、彼女は一度小部屋に身を隠す。懐からロープガンを取り出した。そっと洞穴の状況を窺った。
「高見さん、そこに居ろ!」
突如、黒澤の声が響いた。それとほぼ同時に爆発が起こる。耳に残る破裂音と突風から身を隠した高見は、それが収まるや否や駆けだした。洞穴入り口付近の強度を鑑みて、黒澤がグレネードを放ったのだ。
煙がわずかに残る周辺を、彼女はケースを持って進んだ。すると、爆風に煽られたのか、岩陰に突っ伏した黒澤の姿が見える。思わず駆け寄って身を起こした。泥と汚れにまみれていたが、意識はしっかり保っている。彼は何も言わず、丸い瞳を鋭く光らせながら、視線を上に向けた。
そこにボブカットの”奴”が立っていた。テレビCMの女優のように微笑んでいる。グレネードを放たれたというのに、それは無傷だった。
「なんですか、この人らは。ほんとに」
高見がぼやいたが、黒澤は何も言わなかった。単に言葉が出てこなかっただけだろう。”奴”は紫色に発光する鞭のような武器をしならせて、唇を震わせた。
「その物資を、我々に返しなさい」
「へ?」
「その物資を、我々に、返しなさい」
高見が素っ頓狂な声をあげると”奴”はもう一度繰り返した。再び唇を震わす。
「お前たち人間が手にするには有り余る代物です。それは手違いでこの土地に運ばれました。我々の重要な物資です。今すぐ返しなさい」
高見は黒澤を一瞬盗み見た。その視線は強い。案の定、彼女は反論した。
「悪いけど、こっちも仕事で来てるので持ち帰ります。ただ返してほしいだけなら、どうして攻撃してきたんですか。こんな場所に持ち込まれた物資なんて、どうせ危なっかしいものなんでしょ。持ち帰って調べます」
そして、事務局からスキャンした当案件のホログラムを提示した。文句があるならココに言え、と言わんばかりの対応に、”奴”の眉間に皺が寄った。次いでその右手が持ち上げられ、鞭がしなる。高見は強気の姿勢を崩さずに、すかさず両手でロープガンを構えた。
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