7 ”奴ら”の正体


そんなもんで対抗できるわけないだろ、さっさと逃げろ


 黒澤はそう口にしたつもりが、言葉で発せられるよりわずかに速く、”奴”の足下に大槌が釣り落とされた。銀髪の男が猛追してきたのだ。


 ”奴”が立っていた岩場が、紙切れのように削り取られる。瞬間的に飛び退いたのか直撃はしなかったようだが、”奴”は手にしていた鞭を振るった。高見が居た場所ごと勢いよく紫の閃光が凪いでいくが、高見はすかさずホログラムシールドを展開した。


 光の衝撃を弾くと、シールドはいよいよ原型を保てなくなっていたが、高見は開いたままのそれを黒澤の足下に突き刺し、”奴”に向けてロープガンを放った。それは見事に”奴”に絡まり、行動を封じられた”奴”はバランスを崩して地面へ落下した。


 そして有無を言わせる間もなく、銀髪の男が振り下ろした大槌が”奴”の胴体に振り下ろされた。反動で、”奴”が握っていた鞭の柄が転がり落ちる。光の鞭はジジっと音を立てながら消失した。


 高見はその柄を拾い上げたあと、黒澤の元へ駆け寄った。彼はようやく上半身を起こし、頭を抱えていた。顔に煤が付いている。高見は着ていたツナギの裾でそれを簡単に拭った。


「大丈夫でしたか?」

「……高見さんて、たまに怖いよね」

「え?」

 何のことかと彼女が目を丸くしていると、電子音が聞こえた。


「HR2990はどうした?」


 見ると、潰れた”奴”が発した音だった。高見は驚いてしゃっくりをあげそうになった。先程は対応するのに精一杯だったが時間が経って冷静さが戻ってくると、”奴”はなんだったのかという情報が鮮明に視界に入ってくる。


 恐る恐る近づいてみると、それは目を見開いたまま変わらぬ表情で真上を見つめていた。潰れた胴体からは光と体液が漏れ出している。薄暗くてよく見えないが、血ではない。すると、大槌をゆっくりと持ち上げた銀髪の男が悠々と口を開いた。


「HR2990? それはお前と共にいた丸顔のアンドロイドか? それならお前と同様にボクが破壊したよ。この対アンドロイドの大槌でね」

「……アンドロイドだったんですか、この人ら……」


 高見がそうぼやくと、銀髪の男は呆れたように額に手を当てた。ため息まじりに告げてくる。


「やれやれ、これだから二流の支援は嫌なんだよ……。敵の正体も知らずに飛び込んでくるんだから。正直言って、キミたちが無事なのは、ボクが有能なおかげだ。いやなに、礼など及ばんが、何か言いたいことがあるなら聞かないこともない……」

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