8 厄介なことになったな
銀髪の男が一人で話し続けるのを無視して、高見はその場にしゃがみ込んだ。いつのまにか機能を停止した(ように見える)アンドロイドの頬に触れる。自分の頬にも。
同じ感触。それに不気味さを覚え、彼女はすぐに指を引っ込めた。目を開けたままの機体を見つめる。噂には聞いていたが、アンドロイドが存在し、あろうことかメトロシティに入り込んでいるとは。とんでもない案件を受注したなと思いながらも彼女はうっすら笑みを浮かべた。
素材とアンドロイドが使っていた武器を回収した。恐らくどこの業者も見たことも触れたこともない代物だ。回収物資は一度提出するが、素材のデータはスキャンした。調べれば何かわかるかもしれない。
銀髪の男はまだ一人でしゃべっているようだったが、ふと、自分の名前を呼ぶ声がした。黒澤だ。振り返るが、彼が転がっていた場所に既に姿は無かった。移動して探すと、物資があった小部屋の、さらに奥の部屋からだ。
壊れたゲートの先に黒澤がいた。何だ、もう動けるようになったのか。よかったな。と思う間もなく、高見は部屋の光景に目を丸くした。黒澤の元へ歩み寄る。
「見てみろ、この部屋」
彼はそう言って、部屋中を見回す。薄暗い室内には、至る所に人型の物体が並べられていた。はじめこそ死体かと思ったが近づいてみると半壊したオートマタだった。数体転がっている。作業台の上には、解体途中の機体が乗っていた。
「なんですか、これ」
「わからない。けど、もしこれがニュースでやってたオートマタ失踪事件と関わりがあったら?」
「それ、やばいですね」
メトロシティでニュースになっていた、正規品オートマタの失踪事件。出かけたまま戻らないオートマタがこの廃棄場地下施設に連れ込まれていたとしたら。この案件は単なる”物資の回収”では済まなくなる。
先日モーテルで確認した壊れたオートマタと逃げた謎の物体についても、関連性があるとしたら高見たちガレージも何かしら調査協力を依頼されるかもしれない。厄介なことになったな、と黒澤は無意識に眉根を潜めた。体中の痛みが戻りつつある。早く休みたいところだが、厄介といえばもう一つ……。
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