9 やっと帰れる
「ここは、昔、笠原工業が利用していた実験施設だ」
銀髪の男が姿を現した。大槌は背中に背負っている。
「”奴ら”アンドロイドは、オートマタ一掃作戦後からこの場所を狙っていたのだろうな。何せここには誰にも寄りつかない。隠れ蓑にはもってこいの場所だ」
「ここのアンドロイドが来るって、あなた知ってたんですか?」
高見が聞いた。素材の入っているケースを大事そうに抱えている。黒澤も警戒した。アンドロイドは一蹴できたとしても、まだこの銀髪の男が自分たちの脅威になる可能性があったからだ。しかし目の前の男はそんな緊張感などつゆ知らずに一人で話を続けている。
「今日来るか……ということなら知らなかったが。いずれアンドロイドがメトロシティに仕掛けてくることは、我々は予測していたよ。それが今日になっただけだ。ボクのおかげで命拾いしたんだ。拾った命は大事にしたまえ」
「我々ってのは、大手か?」
今度は黒澤が訪ねた。
「無論。ボクたち大手も感づいてはいたが。話の続きは戻ってからにしようじゃないか。それを預かっていいかな?」
銀髪の男はそう言ってゆっくり高見に手を伸ばした。彼女は後ずさりする。
「ダメ。私たちが受注した案件だからこちらで一旦持ち帰る。それと、私たちの車にはあなたとそのデッカイの乗れないから、後で直接ここに来て」
彼女はそう言って端末からマップを空間に取り出した。指で弾くとデータが男の方へ飛んでいく。男はそれをキャッチすると満足げに頷いた。
「よかろう。ボクも別の乗り物で来ているし、キミたちの拠点には興味があったんだ。紅茶を用意してもらっていいかな?」
銀髪の男はそう言ってウインクをした。高見も黒澤もそれを無視して、小部屋を後にし、来たときよりも力を込めて梯子を登りハッチを開けて外に出た。廃棄場を足早に駆け抜け足場から車の停めてある場所へ戻る。渓谷の遙か彼方には満天の星が顔を覗かせていた。
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