10 一回やすみ

 爆心地から2時間かけてガレージに戻る頃には夜中を過ぎた時間になっていたが、留守番していたエルリもまだ起きていた。彼女は心配そうな顔で二人に歩み寄った。


「無事でよかったです」

「うん。通信ありがとね。おかげで支援者と合流できたよ。変な人だったけど助かった」

「変な人……、そうですよね、琴平の紹介じゃあね」


「でも役に立った」

 黒澤だ。よほど疲れたのかこれ以上会話する気にもシャワーすら浴びる気にもなれず、彼はそのままソファに倒れ込んだ。「その変な奴が到着したら教えて」と言い残し、彼は寝息を立てた。


「お疲れ様です。あ、それと琴平さんもガレージに向かってると連絡ありました」

「え、琴平さん来るの? 今から?」

 高見は回収物資の入ったケースと拾った鞭の柄を作業台に乗せたところで、驚いて振り返る。エルリは気まずそうに頷いた。しかし彼女の意に反するように、高見はニヤリと笑みをこぼした。


「これは、うふふ、いよいよキナ臭くなってきたよ、エルリ」

「それどんなニオイ?」彼女は顔をしかめた。ついでに声色を下げて告げる。

「廃棄場地下からの物資回収案件に行ったらアンドロイドが出てきて、しかもその案件の支援者アタッカーが琴平さんの紹介って……。出来過ぎなんだよね」

「アンドロイドが出たんですか?」


 エルリはそう言って口に手を当てた。オートマタ用の素材”デザイナーベイビー”であるエルリには少なからず関係があった。彼女の妹であるレルラは、アンドロイドに興味を持って、彼らの拠点と言われる”北の狭間”へ向かったのだから。


 高見はケースを開けて素材を眺める。そして満足そうに笑みを浮かべながら振り返る。

「楽しくなってきそうじゃない?」

 たぶん、そんなことを思っているのは高見佳奈だけだろうなとエルリは思いつつ、黒澤を見やった。そして心の中でもう一度、お疲れ様です。と呟いた。

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