5 嵐が去って

「……パパがやっっっと!! あの””に付きっきりの仕事を終えて帰ってきたと思ったら、今度はボクの方が忙しくなるんじゃ、一緒にショッピングにも行けないじゃ無いか! ボクずっと楽しみにしてたのに……」


 ああ、ロクデナシって伊野田さんの事か……。と思いつつ。

 高見はテーブルの上に置かれたアンドロイドの武器を振り回したい気分に駆られた。確か鞭のように使えるはずだ。あれで全部なぎ倒せたら楽しいだろうな、と考える。


 結局今回も、自分たちは琴平の手の上で踊らされていたのである。しかも今回はハズレのオマケ付きで。忍はまだ一人で喋っていた。琴平はそんなことはつゆ知らず、テーブルの上のケースを手に取った。


「これで案件完了だ。送金するから後で確認したまえ」

「……、はい。お疲れ様でした。それ、どこに持って行くんですか?」

 高見が訊いた。琴平は淡々と返事をした。

「メトロシティの研究所だ」

「ただの研究所なんかに預けて大丈夫なのか」


 黒澤がゆっくり顔をあげてそう言った。よろよろと力なく上体を起こす。ダメージは相当残っているはずだ(ある意味でたった今精神的ダメージも受けたかもしれない)。気力は無くとも、自分たちが回収した素材の今後には興味はあるようだ。すると琴平は、しっかりと彼の目を見つめて答えた。

「問題はない。なにせ研究所には、彼が働いている」

「…へぇ。"彼"ですか」


 彼、を思い返す。気だるげに笑みを浮かべた、琥珀色の瞳をもつ男の顔。琴平は未だに”彼”を名前で呼ばないのだなと、余計な事が気になる。そんな物資が運ばれてくる事を、彼が知っているか否かは黒澤は聞かないでおいた。琴平は「次の仕事が決まったら通知すると言い、席を立った。


 エルリも立ち上がり、一人で話している忍の背中をつついた。「そろそろ帰って」と促すと、忍は琴平にべったり張り付いたままガレージを後にした。


 やがて通常の静けさを取り戻したガレージに残された3人は、ソファに腰掛けて項垂れた。やがて誰かが「それにしても”ワニの歯”なんて、だっさ」と口にすると、彼らは肩を震わせて笑った。

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