2 トリガーが必要だ
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「黒澤さん、こっちです。早く」
高見が素早い足取りで、洞穴の奥へ進んでいく。黒澤も後を追うが、如何せん全身が痛い。先程意味のわからない攻撃に吹き飛ばされたせいだった。火傷に似たヒリヒリした痛みと痺れが断続的に体中を走り回り、彼の思考を濁らせた。
薄暗い洞穴を急ぎ足で進んでいるせいか、何度も窪みに足を取られそうになる。水たまりを飛び越えた所で隙を見て後方を確認するが、”奴ら”はまだ追いついてこない。大きな岩を乗り越えたところで、高見と黒澤は岩陰に身を潜めた。長く息を吐き出す。
「大丈夫ですか?」
「なんとか。高見さんは」
「平気です」
口早にそう返事をすると、彼女は端末を確認した。物資回収場所をチェックする。ポイントと逆に向かっていることに気づき、彼女は舌を出した。回収するには”奴ら”をなんとかしなければならないのだが、なんとかしようにも打開の決め手がない。
「参ったな、あいつらはなんだ」
「何でしょうね。新手の違法オートマタか、どこかの軍事組織かわかりませんけど。あの武器なんですかね!? すっごい欲しいんですけど! 見ました? あの威力!」
「うん、わかる。身をもって噛みしめたから、アレの威力」
「あ、そうでしたね。すいません」
「いいよ。もう二度と、あの攻撃は受けたくない」
「一旦、地上に出たいですね」
「道、わかるか?」
「いいえ」
「早いよ」
「この場所、何かの地下施設ってことは間違いないんですけど、出入り口は私たちが入ってきたハッチのところだけみたいです。他にもあるにはあったんですけど、崩落してますね」
「ツイてない」
黒澤はそう言って、うなだれた。
装備を確認する。スリンガーの弾は……、煙幕はついさっき使った分で無くなった。閃光弾は残り二発。一番攻撃力のあるグレネードも二発だが、この洞穴で使う気にはならない。
ボウガンの矢はまだ余裕がある。”奴ら”に通用するかはわからないが、いつまでも逃げ隠れているわけにはいかない。しかし、何かこの場の空気を変えるトリガーが必要だ。合図でもなんでもいい。なんなら洞穴の崩落でもいい。何かが必要だ。
自分にそれを巻き起こせるほどの技量がないことを痛感し黒澤は舌打ちした。せめて高見だけでも地上にあげられればいいのだが。すると高見が顔を上げた。どういうわけか、こんな状況だというのに瞳がきらめいている。
「エルリから通信です!」
「エルリから?」
「なんと、今この場所にアタッカーが向かっているらしいです!」
「エルリ……。 このタイミングですごいアシストだな」
黒澤が感慨深そうに拳を握っていると、高見が釘を刺した。
「いや、それが、琴平さんの紹介した”支援者”って言ってます」
「えぇ、琴平さんの? なんで素直に喜べないんだろう。こんなにピンチなのに」
黒澤が丸い目を半眼にし、眉間に指を乗せたところだった。頭上から声が降ってきた。
「おしゃべりはもうすんだかな? お嬢さん方?」
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