6 そんなわけあるかい
ボウガンの矢が狙った先には、清掃用品が転がっているだけだった。水滴すら残っていない状態を見るに、既に清掃を終えたところで何かに襲われたらしい。
何も”脅威”がなく、事務局に状況報告するだけで終了だと安堵しかけた時だった。
『黒澤さん! いま、モーテルから何か飛び出してきました!』
モーテルの外で待機している車輌から高見が叫び声をあげた。黒澤はすぐさま部屋から外に駆け出し、2Fの手すりから身を乗り出した。階下にある管理室の窓から、目を丸くした女が顔を覗かせたのもほぼ同時だった。
黒澤は舌打ちして階段を駆け下りる。これで夜の休みも無くなった挙げ句、案件が急激に面倒なものに変わった。報酬の金額で収まるかどうかわかった物ではないが、彼は”飛び出してきた何か”を追った。
「高見さん、どこに行ったかわかるか? 姿を見た?」
『敷地を抜けていきました』
外の音が混ざっている。車から降りたようだ。正体不明の相手を彼女が追って刺激するよりかは妥当な判断をしたことに、黒澤は胸をなで下ろした。
するとモーテルの角に彼女の姿が見えた。紺色のツナギの上半身を腰に巻いていた。駆け寄ってくる。
「公道に出ていきました。人型です。私は部屋を調べます」
「わかった。気をつけろよ」
黒澤はすれ違い様にそう言い残し、公道へ飛び出した。既に距離ができている。足が速い。追うのは苦手だ。しかし対象の姿が目に入れば、こちらのものだ。
メトロシティ内とはいえ、こんな郊外では隠れられる建物や乗り捨てられるバイクも駐まっていない。
案の定、公道に沿って駆けていく姿が視界に入ったところで、黒澤は左手に装着していたスリンガーをONにした。高見が製作した小型の電磁グレネードをセットし、引く。狙いを定めるが、彼は違和感を覚えた。
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