4 一室と手
扉のロックが解除されると、高見佳奈の声が聞こえてくる。
『仕方ないじゃないですかぁ。アタッカーがいない今って、こんな警備隊のおこぼれ仕事しか受注できませんよ。ただでさえ違法オートマタの数が減って仕事の取り合いなのに』
高見の言い分も良くわかった。自分たちは違法機の対応会社なのに、その違法機自体が減っているのだから仕方ないといえば仕方ない。つまりメトロシティは平穏、というわけだが、そうなると自分たちのような会社は赤字になる。受注は常に取り合いだ。
しかも作戦の要となるアタッカーが不在の今は、案件にありつけるだけでも幸運というしかない。
「それにしたって、”危ないかもしれないから見に来い”だと。水道管の点検じゃあるまいし」
『黒澤さん、点検もできそうですよね』
「そっちなら高見さんのほうが得意だろう」
『じゃ、点検だったら呼んでください。車にいますんで』
高見の声を無視し室内に足を踏み入れた黒澤は、しん、とした空気に身体を割り込ませる。
オートマタが襲ってくるかもと構えていたが、そんなことは起きなかった。神経質になりすぎていたかもしれない。今回は違法機の対応というわけではないのだから、少々肩の力を抜いていいのではと思い、黒澤は嘆息混じりに返事をした。
「その違法機の数が減った原因を作ったのが俺たちっていうのが、また皮肉だな」
『それは言わない約束ですよぉ、黒澤さんったら』
高見はやけに上機嫌に返事をした。その”原因”とやらを思い返し楽しんでいるような言い方だ。
部屋の中には荒らされた形跡はなく、備え付けのテーブル、椅子、ベッドにも乱れた跡はなかった。
「笠原工業に殴り込みをかけて、社長に直談判して。引っかき回した結果がこれだ。因果応報ってこういうことを言うんだな」
『また、そういう後ろめたい事を言うんですから。黒澤さんだってあの作戦、ノリノリだったじゃないですか』
「……否定はしない」
『最近、素直ですよね』
「……」
『あ、怒りました?』
黒澤は返事をしなかった。怒っているわけではない。管理人が言っていた通り、部屋の奥、バスルームのほうに何か落ちている。
「何かある」
『危険そうですか?』
「わからない」
彼は慎重にそれに近づいた。よく見ると手だった。手のひらを上に向けて転がってる。黒澤は背負っていたボウガンを構えて、バスルームに足を踏み入れた。前後左右を確認するが、他に気配はない。黒澤はその場に膝を付いた。
手の正体はオートマタだった。本体に接続されており、機体が倒れていた。要するに、五体満足でバスルームに転がっていた。部屋の清掃を担当していた正規品のオートマタだろう。頭上の円環が不安定に点滅し消えかかっている。目は見開いたままだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます