3 モーテルでの案件

「高見さん、これはどう考えても、俺たちでなくて警備隊の仕事だと思うんだが」


 古びたモーテルの扉の前で、黒澤は苦言を漏らした。生憎の空模様で霧雨が降っている。それが自分の黒髪とブルゾンを湿らせていることが不快だった。


 2Fから管理室の様子を窺うと、気弱そうな女が窓越しにこちらを見上げていたが、すぐに奥へ姿を消した。こんな頼りなさそうな男が来たことに落胆したような顔だったが、よくあることなので彼は気にしなかった。


 小柄な体格の黒澤が年の割に若く見えるのは見た目のせいもあるが、それを助長しているのは丸くて大きな瞳のせいだ。

 実年齢は30を超えているが、未だに学生に間違われることもある。誰が見ても、オートマタを相手にできるとは思えない。


 現に、このモーテルの管理人はどこか諦めたような面持ちだった。

 恐らく”もっと報酬を上乗せしてマトモな業者に来てもらうべきだった”と落胆しているに違いない。


 聞いた話によると、”昨晩、2Fの一室の清掃に行ったオートマタが部屋から戻らないから一度様子を見に行ったが、部屋の奥に腕のようなものを見つけた。気味が悪くなったので事務局に通報した”ということで、ちょうどガレージで事務仕事をしていたもう一人の同僚、エルリがこの案件を見つけたのが事の経緯だ。

 すぐに受注し、扉の目前に立っている。


 黒澤は扉にキーをかざす前に、装備品を確認した。

 いつも違法機相手の際に使っている小型のボウガンを背負い、サポート用のスリンガーを左手に装着している。サポートする相手がいないのだから、必要ないとも思ったが習慣のため持ってきてしまった。




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