8 アタッカーがほしい

 モーテルの一室へ戻ると、バスルームで高見が腰を下ろしてオートマタを観察していた。黒澤に気がついていないのか、検視官さながら、さまざまな方向から機体を眺めている。彼が壁をノックするとようやく気づいたのか、肩を跳ね上がらせてこちらへ振り向いた。


「あ、大丈夫でしたか?」

「この通りな」

「対象は?」

「逃がしたよ」黒澤は、ため息まじりにそう言ってベッドに腰を下ろした。

「えぇ~、逃がしちゃったんですか?」

「えぇ~、じゃないよ。正体不明なうえ足も速かったし、人間かもしれない相手にボカスカ攻撃できるわけないだろ」

「確かにあれは、違法機体にしては出来が良すぎると思いましたけど。なんだったんですかね」

「それも大事だが、この案件、報酬はどうなるんだ?」

「一応、要望通り見に来ましたし、脅威も追っ払いましたよ。逃がしましたけど」

「まぁ、期待はしないでおこう」


 黒澤はそう言って立ち上がり、先に部屋を後にした。いつの間にか周辺は陽が暮れて、ここ一体はすぐに暗闇に包まれるだろう。1Fへ下る階段へ足をかけたところ、高見が追いついてきたので、黒澤は思わず愚痴をこぼした。


「やっぱり、オートマタ案件ってアタッカー必要だよなぁ。俺みたいなサポータだけだと、決め手に欠けるんだよな」

 アタッカーがいれば今日のような案件でも、例えば高見とアタッカーが車で追跡し、自分は後方支援に回れたはずなのに……。彼は頭の中で今日の動きを反芻させた。


 引退したアタッカーの、あの男の顔がよぎった。まったく理解に苦しむ男だったが、現場で組むと息が合うのだから不思議だった。


「アタッカーを雇う人件費、ウチにはありません」

「……そうですよね」


 高見の断言に力なく返事をし、管理室に寄った2人は車で拠点のガレージに戻った。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る