4 支援者の正体と今後について

1 合格だよ

カチャリ


 と、ガレージのロックが解錠した。扉を開けて入ってきたのは、かっちりとした鎧のようなスーツを纏った中年の男だった。久々に顔を合わせたが、最後に見たときと何ら変わりない。それよりか事務局を退いた今の方が幾分か若返ってる印象だ。


 男はオールバックにしたグレイヘアを掻き上げつつ、リビングフロアまで歩いてきた。高見佳奈はソファから立ち上がって声をかける。相変わらずマフィアの登場シーンみたいだな、と心の中で思いながら。


「こんばんは、琴平さん。待ってましたよ」

「うむ。こんな時間に済まないね」

 琴平はそう言って、ゆっくりとソファに腰を掛けた。隣のソファでは、黒澤当麻が仰向けに転がって眠っていた。高見が声を掛けようとしたが、琴平は手のひらをあげて制止した。


「起こすのも申し訳ない」

「……、まあ、めずらしく口開けて寝てますもんね。そう。大変でしたよ。毎度のことですけどぉ」

 高見はハイテーブルのチェアに腰掛けて、笑みをこぼしながら案件の結果を伝えた。さっきまで着ていたツナギは脱いで、Tシャツとショートパンツに着替えている。エルリがカップを運んできた。高見も琴平も礼を言って、それぞれ一口啜った。ハーブティーだった。


「この案件が琴平さんの提示したものだってエルリから聞いて驚きましたけど、納得しちゃいましたよ。あなたならやりかねない」

「うむ。だいぶ君たちとの意思疎通もスムーズにできるようになったな」

「私たちがアンドロイド案件に当たっても対応できるか観察して、うちにアタッカー派遣を検討しようと思ってたってとこですよね」

「無論。アンドロイド対応はオートマタとは一味違う。なにせメトロシティのオートマタは、”北の狭間”のアンドロイドをモデルに製造されているからね。つまりアンドロイドはオートマタの上位互換なのだよ。今回の案件を全うできないチームに、大手秘蔵っ子のアタッカーを派遣するわけにもいかなくてね。おわかりのとおり、人を動かすには金が掛かるものだ」

「もちろんわかってますよ。で、今回ガレージの働きは”合格”ってことでいいですよね?」


 高見は立ち上がり、テーブルに乗せていたケースを琴平の前に移動させた。それを開くと中にはクッション材に埋め込まれる形で素材が入っている。見たところ、ただの石の塊にしか見えない。


 琴平は手袋をはめて、素材を取り出した。ゴツゴツとした塊を顔の高さまで持ち上げる姿は、まるで死に神が頭蓋骨を掲げているようにも見えた。次いで端末で素材をスキャンする。高見はエルリの隣に腰掛け、静かにそれを見ていた。


「たしかに”ワニの歯”に間違いない。きみの言葉を借りて言うなら、”合格”だよ」

 それを聞いて高見佳奈は満足そうに笑みを浮かべた。だがすぐに訝しげな顔をしてみせる。


「っていうか、なんでそれ”ワニの歯”って名前なんですか?」

「詳しくは私も知らん。だが今のところそれ以外の呼び名がない」

 一体誰がつけた名称なのだ、と高見は思ったがもうひとつの戦利品もテーブルに並べた。

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