業務日報4 (思うところ)
内容:物資回収が完了。アンドロイドと遭遇するなど少々リスクの高い案件だった。物資は琴平さんへ預け、こちらへの入金も確認。
報告:支援者である琴平忍のガレージへの派遣が正式に決まった。その見返りという形で、琴平さんの抱える”アンドロイド案件”に手を貸すことになった。
日報:アンドロイドの拠点と言われている”北の狭間”では、既に琴平さんの仲間が調査に入っていると聞いた。いずれ自分たちガレージにも具体的な仕事が発注されるだろう。それまでに対策を練っておきたいところだ。
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黒澤はモニタを閉じ、チェアに背をあずけた。デスクには熱を失ったコーヒーが残っている。コーヒーも少し疲れだようだ。
既に夜も更けた。今日はガレージに泊まらせてもらおうと席を立ち、静まりかえった2Fを見上げる。
上で寝ている二人に危険が及ばなければいいのだが、と少しだけ気を病みそうになったが、彼女らは強い。きっと大丈夫だろう。明かりを落としソファに横になる。
目を閉じると、直近の出来事が頭の中で再生された。自分の手に余るとしか思えない案件がくるだろうが、自分にこなせるだろうか。そんな不安ばかりが頭をよぎる。
自分はいつからこんな弱気になったのだろうと自問した。今ガレージにいる中で、いちばん弱いのは自分ではないだろうか。サポーターである自分の長所はアタッカーが居ることで発揮できるが、琴平忍を相手に自分の実力を出すことができるとは思えなかった。自分にアンドロイド案件などこなせるのだろうか。この仕事も、潮時なのでは……、といった考えまで浮かんできてしまう。
仕事か。
それについて、いつか”彼”に聞いたことがあった。
「どうしてこんな仕事をしているのか」と。すると彼はこう言った。
「自分が何のために造り出されたかなんて、そんなのはどうでもいいんだ。おれは、おれの生活をしたいだけだよ。そのために邪魔してくるやつには、ちょいと道を開けてもらう。それだけだ」
黒澤は大きな瞳を見開いた。
薄暗い天井には何もない。ただ、脳裏に彼の言葉が反芻している。自分の生活や目的のために、脅威を取り除く。そんな単純な理由だったが、単純すぎて誰もが忘れがちになる理由だ。現に黒澤も忘れていた。
こんな時に彼の言葉を思い出すなんて自分もまだまだ未熟なのだなと、彼は笑みを漏らした。
しかもその会話の中で、自分が彼に返した言葉が「自分の価値は、自分で上げろ」だった。そう言い残して、もう二度と会わないだろうと思って、その場を後にしたのだから。
それが今、そっくりそのまま自分に返ってきている。そんなことになるとは、当時の自分は思っていなかった。彼はこの小さな悩みを吐き捨てるかのように「本当におまえは、生意気な奴だな」とぼやいた。
そして暗闇に身を委ね、ゆっくりと眠りに落ちた。
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